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ロンドンに置き去りにされたウェイラーズ~27歳のボブ・マーリィ

2017.05.11

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27歳のボブ・マーリィが夏でも肌寒いロンドンで、夜の寒さに耐えていたのは1972年のことだった。

ピーター・トッシュとバニー・ウェイラー、そしてボブ・マーリィの3人からなるザ・ウェイラーズは、現在でも名曲との誉れ高い「ワン・ラブ(One Love)」をヒットさせるなどして、ジャマイカでは60年代の半ばから不動の人気を得ていた。

ジャマイカ移民が多く住むイギリスでウェイラーズを大々的に売り込もうと、ツアーを企画したのは楽曲の権利を持っていたダニー・シムズだ。

ボブ・マーリィウェイラーズ

だが、当時のジャマイカはカリブ海の小さな島のひとつに過ぎなくて、ロンドンにあったジャマイカ人コミュニティーの外で、ウェイラーズはまだ無名だった。
そのためにツアーがなかなか実現せず、3人は待たされたまま、安アパートで無為に時間が流れていくのを耐えるしかなかった。

ところがある朝、気がつくとシムズの姿が消えていた。
シムズはウェイラーズを置き去りにしたまま、別の仕事でアメリカに行ってしまったのである。

一文無しでロンドンに残されて苦境に陥ったウェイラーズは伝を頼って 、アイランド・レコードを率いるクリス・ブラックウェルに相談することにした。

イギリスに生まれてジャマイカに育った白人のクリスは、イギリスに住むジャマイカ人に向けてレコードを販売するアイランド・レコードを設立して成功していた。

さらにはスペンサー・デイヴィス・グループのマネージメントをきっかけにして、トラフィックやキング・クリムゾン、エマーソン・レイク・アンド・パーマーといったロック・ミュージシャンでヒットを出し、アイランドは世界的にも注目を集めるインディーズ・レーベルになった時期だ。

アイランド

ロンドンはボブ・マーリィにとって、見知らぬコンクリート・ジャングルだった。
だからそこで出会ったジャマイカ育ちのクリスは、希望の光に見えたかもしれない。

クリスにしてみると、運がいいことにレゲエ・シンガーのジミー・クリフがアイランドを出て、メジャーのEMIへ移籍して、ジャマイカのアーティストがいなくなったところだった。
ウェイラーズとクリスの出会いは、両者にとって絶妙のタイミングとなった。

すぐにアルバム契約を結んだクリスはボブ・マーリィを信用して、4000ポンドもの大金を前金で渡した。

ジャマイカに帰ったボブはすぐにアルバム制作を始めて、その年が終わらないうちに『Catch a Fire』を完成させた。
そしてマスターテープを持って冬のロンドンに戻ってきた。

きっと どこかに光があるはず
このコンクリート・ジャングルのかわりに・・・
幻想・・・混乱・・・
冷たい都会のコンクリート・ジャングル
おまえたちが作り出したんだ
このコンクリート・ジャングルに
俺が生きていかなきゃいけない理由があるのかい?

(「コンクリート・ジャングル」)




マスターテープを聴いたクリスは、加速度的に広まっていたロックのマーケットでも、ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズが間違いなく成功すると確信する。
そこで世界に向けてもうひとつ、別ヴァージョンのアルバムを制作するアイデアを思いついた。

それまでの黒人スターのようにではなく、彼らをロック・スターのように売り出すべきだという私の直感を、ボブは信じてくれたんだ (クリス・ブラックウェル)


完成した作品に後で別人に手を加えられることは、表現者なら誰もが何らかの拒否反応を起こすのが当然である。
だがボブ・マーリィはクリスを信頼した。

世界のマーケットを意識したアルバム『Catch a Fire』には、アメリカ南部のマッスルショールズから来たギタリストのウェイン・パーキンスと、やはりアメリカ生まれで父親がカントリー・ミュージシャンだったジョン“ラビット”バンドリックがオルガンで参加して、オーバーダブが行われた。

彼らの音が加わってでロック・ファンにも受け入れられるサウンドになった『Catch a Fire』は、1973年4月にリリースされて世界中のリスナーに衝撃を与えることになる。

社会的な内容の歌詞と力強いサウンドを持つレゲエという新しい表現と、ボブ・マーリィという稀有なシンガーの存在を知らしめたのである。

クリスとの間にある信頼関係はボブ・マーリィが1981年5月11日、36歳の若さで息をひきとるまで変わることなく続いたという。


ボブ・マーリィ&ザ・ウェイラーズ『キャッチ・ア・ファイア』
ユニバーサル ミュージック

TAP the POP 2周年記念特集 ミュージシャンたちの27歳~青春の終わりと人生の始まり〜



*このコラムは2014年6月21日に初公開されました。

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