TAP the STORY

三面記事から生まれた不朽のスタンダード

2015.01.31

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カントリーとは「馬を下りたカウボーイたちの唄」であるというザックリした言い方がある。
アメリカ西部に鉄道の槌音が響く頃、働き口を失ったカウボーイたちの中で、喉に覚えのある男たちが歌を作り、カントリーの歌い手になった。

荒れ果てた平原に牛を追う辛い暮らしの中で、好まれたのはセンチメンタルでデリケートな男の心情と、そして実際にあった殺人事件や犯罪を歌った事件だった。つまり、歌で伝える「瓦版」である。
これらは、「マーダー・バラッド」と呼ばれ、アメリカ・アパラチア地方生まれの独特のジャンルとなってゆく。
この地方は地理的に他の地域から孤立していて、移民としてやってきたアイルランドの人々の音楽が深く根を下していた。

「Long Black Veil」もそんなマーダー・バラッドの代表曲のひとつだ。
殺人事件の容疑をかけられた男はアリバイを求められるが、その夜、男は友人の妻と一夜を過ごしていた。それが言えず、男は死刑となる。
黄泉の国から一人称で語りかけてくる男の声。
夜な夜な男の墓地に現れる黒いヴェールの女。
幻想的な歌詞は、アイルランドの文芸詩を思わせる格調がある。メロディラインもアイルランドの古謡を思わせるのだが、この曲を書いたのは作詞・作曲ともアメリカ人である。

作詞はメアリジョン・ウイルキンいうナッシュビルの女性で、歌手でもあったが本業は作詞家。たまたま新聞の三面記事にあった未解決の殺人事件にヒントを得て、この詩を書いたという。
この曲を最初にレコーディングしたのは、1959年のレフティ・フリッゼル。キャッシュの一代前のジミー・ロジャースの流れをくむ歌手で、スマッシュ・ヒットとなる。
あえて、アパラチアのバラッドを思わせるノスタルジーという狙いが当たったのだ。その後はジョニー・キャッシュに歌われて全米ヒットに。さらにジョーン・バエズが続く。ザ・バンドはデビュー・アルバムでカバーし、ブルース・スプリングスティーンやデイブ・マシューズなども録音した。

だが、この曲の運命が劇的に変わるのが1995年。
生粋のアイリッシュ・トラッド・バンド、ザ・チーフタンズとの出会いだった。
声調もぴったりの彼らにカバーされたことで(彼らと親交の深いミック・ジャガーが歌った)、この曲はカントリーからワールド・ミュージックへとファン層を広げ、一躍世界的に知られることとなる。
このアルバム『Long Black Veil』には、シネイド・オコナー、ヴァン・モリソン、マーク・ノップラー、ライ・クーダー、マリアンヌ・フェイスフル、トム・ジョーンズまでが参加している。多くの歌手に愛され、歌われることによって、歌は磨かれ、大きくなる。
「Long Black Veil」はアパラチア地方に生まれ、ジョニー・キャッシュの熱唱で全米に羽ばたき、やがて世界へと遠く長い旅をしたのだ。


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