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「TAP the COLOR」連載第85回
「悲しくて美しい世界」とは、「損失や敗北を受け入れることのできる人間の姿」「それを糧に物事を始められる心の状態」のことだ。ここに紹介する男たち──トム・ウェイツ、エリック・クラプトン、グラム・パーソンズ、ハンク・ウィリアムスの歌や人生には、まさにそんな風景を見ることができる。
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トム・ウェイツ『Rain Dogs』(1985)
アサイラム時代の歌の数々で、LAのナイトライフや場末の物悲しい風景を独特のしゃがれた声で綴り続けたトム・ウェイツ。アイランドに移籍後は、その風景がいよいよ映像的・舞台的になっていく。旅人が行く先々で見つめる風景や人々。酔いどれ天使は「Blind Love」でキース・リチャーズと肩を組んで歌う。デビュー作と並んで彼の最高傑作との評価が高い本作で、映画作家ジム・ジャームッシュはトムの歌をもとに『ダウン・バイ・ロー』を撮影した。
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ダウン・バイ・ロー~トム・ウェイツの歌がもとで撮られた“悲しくて美しい世界”
デレク・アンド・ザ・ドミノス『Layla & Other Assorted Love Songs』(1970)
後に本人が「ロスト・イヤーズ(失われた数年間)」と振り返った、薬物や酒だけを友に無の世界をさまよっていた1970年後半~1973年頃の「悲しくて美しい世界」の産物。長年憧れ続けたブルース発祥の地(アメリカ南部)への音楽探究を抑えきれずに、本国イギリスで得た名声を捨て去るかのように、活動拠点をアメリカに移したクラプトン。1970年、デレク・アンド・ザ・ドミノスとして発表する曲作りに没頭。順風満帆に見えた音楽活動の一方で、親友ジョージ・ハリスンの妻パティ・ボイドへの秘かな想いに長い間苦しんでもいた。それは“報われぬ愛”だと知りながらも、クラプトンの心にはいつも彼女がいた。
「彼女が、僕たちの状況を説明する歌詞がたくさん出てくるアルバムを聴けば、愛の叫びに負けて遂にジョージを捨て、自分と一緒になるんだって確信していた」
こうしてパティへの愛は、同年秋にリリースした本作となって告白されることなるが、クラプトンの一途な想いは叶うことはなかった。
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エリック・クラプトン〜愛の告白の失敗と悲劇に取り憑かれた数年間
ザ・バーズ『Sweetheart of the Rodeo』(1968)
「グラムには、他の奴には見たことがない独特の資質があった。女を泣かせることができるんだ。女の涙を誘い、物悲しく切ない思いを届けることが。安っぽいお涙頂戴じゃない。心の琴線に触れるんだ。あいつにの手には特別な糸が、女の心の急所をつかむ無類の糸が握られていた。俺の足も涙の川を渡ってずぶ濡れだった」
親友だったキース・リチャーズが言うように、グラム・パーソンズの声や歌は“ハイロンサム”そのものだった。人の痛みを持った心の風景を想うその感覚。ミュージシャンにとって最も神秘的な才能。寂れたクラブではベテランのウェイトレスを釘付けにした。
アメリカ南部の巨大な果樹園を経営する富豪の長男として生まれたグラム。しかし彼が12歳の時、「グラム、愛してる」とだけ書き残して父親が頭を撃って自殺する。アルコール中毒だった母親も亡くなってしまう。学生だったグラムは、この頃妹に宛てた手紙にこう記している。
「人生が混乱し、逃げ場を失った人から学ぼう」
本作はグラム・パーソンズ在籍時のザ・バーズの名盤にして、カントリー・ロックの金字塔。グラムが歌う「Hickory Wind」を収録。
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キース・リチャーズとグラム・パーソンズ〜涙の川を渡った男たちの心の風景
ハンク・ウィリアムス『40 Greatest Hits』
わすが6年間しかレコーディングを行っていないにも関わらず、ハンク・ウィリアムスの歌は今も多くの人々の心に哀切な響きを突き刺してくる。1947年にデビュー。「ラヴシック・ブルース」「ロング・ゴーン・ロンサム・ブルース」「なぜ愛してくれないの」「コールド・コールド・ハート」「泣きたいほどの淋しさだ」「ユア・チーティン・ハート」などのカントリースタンダードを放つ一方で、背骨の痛みを和らげるという理由で続けていた長年の飲酒、荒れた結婚生活は、確実にハンクの才能を脅かしていた。エルヴィスがまだ登場する前夜、彼こそがスーパースターの未来だったのだ。1953年に死去、享年29。
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