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歌手人生のターニングポイントとなった『Broken English』、彼女が語る麻薬の恐ろしさ

2019.12.29

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「常習者は利己的で自分のことしか考えない。麻薬は寄生虫のように胃にとどまり、もっと欲しいと要求し、美しさをあざ笑い、破壊する。友情も情熱もセックスも創造性もイマジネーションももはや関係ない。そしてしまいには癌のように身体をむしばみ、その人間の死によって麻薬はやっと仕事を終える。」


十代で結婚した夫と別れ、18歳でデビューを経験、恋人だったミック・ジャガーとも別れた彼女は、その後の人生において自殺未遂を繰り返しながら、薬物やアルコール、摂食障害などの問題を抱えることとなる。
1979年、彼女は33歳の時にリリースしたアルバム『Broken English』で復帰を果たし、高い評価を得る。



それはただの古い戦争
冷戦なんかじゃないわ
人々は何を求めて戦おうとしてるの?
あなたは何と戦っているの?



それは、同じイギリスからザ・クラッシュが『ロンドン・コーリング』を発表した年でもあった。
アメリカとソ連による冷戦が続いていた時代、日本にも大きな影響を及ぼした世界的な石油危機が起こった時期でもあった。
イギリスでは初の女性首相サッチャーが誕生し、不況で冷え込む経済の中、国民たちが不満と怒りの声をあげていた時代でもあった。
UKロックシーンではパンクが全盛期を迎え、クリッシー・ハインド率いるプリテンダーズのデビューし、スージー・アンド・ザ・バンシーズやスリッツなどの女性ミュージシャン達が次々に頭角をあらわしはじめていた。
1964年のデビューから3年間くらいは“エンジェル・ボイス”と言われてきた彼女だったが、1969年の「Sister Morphine(シスター・モルヒネ)」あたりから歌唱法を変え、本作を発表した1970年代後期の頃には完全に“しゃがれ声”となっていた。



幼い頃、修道院で厳格な躾と高度な教育を受けて育てられた彼女は、そのスキャンダラスで不健全なイメージと共に「堕落した道徳のシンボル」「天使の顔をした娼婦」と形容されるようになってゆく…
ミック・ジャガーとの交際によってマスコミに追い詰められ、ミックとの子を流産した上に浮気性なロックスターに翻弄される日々に疲れ果て、現実逃避するためにドラッグに手を出すようになった彼女。
この『Broken English』に収録された「Guilt」という曲の歌詞には、麻薬常習者の悲痛な心の叫びが赤裸々に綴られていた。


血を感じる、血を感じる
血管を流れているけど…まだ足りないの




アルバム用のインタヴューの中で、彼女は麻薬に溺れた理由を率直に語った。

「自分が風変わりな人間であることはいつもわかっていたわ。私はたくさんの可能性を持っていたけれど、それを満たす才能に欠けていたところがあった。こうして仕事に戻るのに10年間もかかってしまったわ。どうしてかって?わかるでしょ?過去に起きたことのすべてのせいよ。」


当時、英国の新聞やアメリカのローリングストーン誌の紙面には“生き残り”という言葉が使われ、彼女を苛立たせたという。

「そういう言葉は大嫌いだわ。何の生き残りってわけ?タイタニック号の沈没なの?私は生き残りなんかじゃないし、みんなが思っているほど弱くはないわ。」


このカムバックと共に麻薬を断ち切ったかのように思われたが…
高評価を得たアルバム『Broken English』の印税を手にした彼女は再びヘロインに手を出すこととなる。

「最後にヘロインを打ったのは1985年だったわ。男とニューヨークで暮らしていた頃よ。幸せではなかったわ。幸せなんて求めてなかった。そこを抜け出そうとも考えてなかった。打ってすぐに自分は死ぬんだと思ったわ。心臓も停止したと思う。その瞬間、助けを求めてたの。気づいたら生きてた。本当は生きることを望んでたの。死にたくなかった。気づいてなかっただけ。でもお酒もドラッグもなしで生きる術がわからなかった。」


その後、彼女は現在に至るまで麻薬との関係を完全に絶って…歌手・女優としてキャリアを重ねている。




2019年10月、マリアンヌ・フェイスフルの伝記映画が制作されるというニュースが流れた。
クイーンの映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーのソウルメイト、メアリー・オースティンを演じたルーシー・ボーイントンがマリアンヌ役の候補に挙がっているという。
撮影は2020年の夏に始まる予定らしい。


<参考文献『マリアンヌ・フェイスフル/アズ・ティアーズ・ゴー・バイ』マーク・派ドキンソン著:野間けい子訳/キネマ旬報社>

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