クリーンなイメージのビートルズに対し、退廃的なバッドボーイであるローリング・ストーンズという図式を決定づけた曲のひとつが「Sympathy for the Devil」(「悪魔を憐れむ歌」)だ。
だが、ストーンズは単なる悪ガキなどではなく、ある種のインテリ愚連隊だった。
『巨匠とマルガリータ』という小説がある。ロシア人作家、ミハイル・ブルガーコフが1929年から1940年にかけて執筆した長編で、ソ連政府の検閲もあり、出版されたのは彼の死後、1966年のことである。
物語は、モスクワの公園から始まる。キリストは後世のでっち上げだと話す文芸誌編集長と詩人。その場に謎の男が現れる。彼はイエスが実在したことをする、と言う。何故なら彼は、ユダヤ総督ポンテオ・ピラトの屋敷に居合わせたというのだ。
「わたしはこの男(イエス)に罪を見いだせない」と言って自らの手を洗いながら、民衆の総意として、イエスを十字架に送った男である。
ブルガーコフの小説にインスパイアされたのだろう。歴史の重大事に居合わせた、というイメージをミック・ジャガーはそのまま膨らませていった。
十字架に架けられたイエスの物語についで、ロシア革命、第2次世界大戦、ケネディ暗殺と展開されていく。そしてこの事件の目撃者こそ「悪魔」だというわけだ。悪魔は最後に、その正体を堕天使ルシファーであることを明かす。。。
この曲は当初「ザ・デヴィル・イズ・マイ・ネーム」というタイトルがつけられていた。そしてそのサウンドはボブ・ディランを彷彿とさせるフォークバラッド形式だったという。
「その曲に俺がベースを弾き、ギターを被せていった。それで、狂ったサンバのような曲になったのさ」
と、キース・リチャーズは語っている。
そして、最後の魔法が「ウー、ウー」という呪術を思わせるコーラスだった。
録音スタジオでこの魔法を放ったのは、アニタ・パレンバーグだった。キースが当時付き合っていたガール・フレンドであり、元ブライアン・ジョーンズの恋人であり、女優である。
彼女があのコーラスをスタジオでつぶやいたのだ。アニタだけでなく、ミックのガール・フレンドだったマリアンヌ・フェイスフルもこのコーラス録音に参加することになった。
「Sympathy for the Devil」を収録した『Beggars Banquet』は、1968年12月に発表されると各方面で絶賛され、ここからストーンズは黄金期を迎えることになる。
ところで、キースは悪魔についてこんな発言を残している。
「奴はいつだってそこにいるさ。俺は何度もルシファーに会ったことがある。世間の連中は、悪魔を埋め、厄介払いできたように考えてるらしいけどな」
自己紹介をお許しいただけるなら
私は富とセンスの男
長き年月各地を旅し
人の魂と信仰心を奪いし者
イエス・キリストが神を疑い
苦痛に喘いだ時に居合わせ
ピラトが手を洗い
イエスの運命を封印するよう手はずした者
初めまして
私の名はご存知かと思う
おっと、あなたは戸惑いのご様子
私のゲームの本質を知らずに
(中略)
どの警官も犯罪者であり
すべての罪人が聖者であり
表裏一体だ
私をルシファーと呼ぶがいい
私は必要あって生かされる力と知るがいい
だから私と会ったなら
礼節を持ち
憐みを持ち
センスよく接するがいい
学びうる限りの礼儀を示さない限り
あなたの魂を無きものにしてやろう
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