ホイットニー・ヒューストンと「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」
2012年2月11日。48歳という若さで悲劇的な死を遂げてしまったホイットニー・ヒューストン。あれから10年以上が経った今でも、街や店、ラジオからふとした瞬間に彼女の歌声が流れてくると、その圧倒的な歌唱力とメッセージに心深く打たれてしまう。
そんなホイットニーの最高傑作と言われ、彼女自身が最も大切にしていた歌がある。1986年3月14日にリリースされた「Greatest Love of All」(グレイテスト・ラヴ・オブ・オール)だ。
これは間違っても恋人たちに向けられたラブソングではない。この歌は自己へ向けた愛と誇りの歌だった。世界中の孤独な魂を持った人々にどれほど生きる勇気を与えてくれただろう。だからこそ忘れられない永遠のスタンダードになった。
ホイットニー・ヒューストンは1963年に、ゴスペル歌手の母親シシーと、エンターテインメント業界で働いていた父親ジョン・ラッセルとの間にニュージャージー州で生まれた。従姉にディオンヌ・ワーウィック、母の友人にアレサ・フランクリンがいたりと、音楽への愛を幼い頃から身近に肌で感じていた彼女は、地下室で掃除機をマイクスタンドに見立てて、コンサート会場のスポットライトが当たったスターのつもりで歌っていたという。「どんな時も自分に対して誇りを持って生きなさい」と、母シシーは娘に言い聞かせた。
11歳で母を見習ってゴスペル歌手として活動を開始。ホイットニーは美人でスタイルも良かったので、ティーン向け雑誌でモデルとしても活躍した。後のファッションアイコンとしての才能はこの頃に培われていた。
その頃、母親と一緒にニューヨークのクラブで歌っているところを、レコード会社からスカウトされる。A&Rマンのジョニー・グリフィスは、「1980年にホイットニーの歌を聴いた時はまだ磨かれていない原石のように感じたけど、2年後のステージでは見違えるほど魅力的で完全にノックアウトされた」と語っている。
アリスタ・レコードと契約したホイットニーは、1985年2月にデビューアルバム『Whitney Houston』をリリース。このアルバムにはR&Bでもゴスペルでもポップスでもダンスミュージックでもない、ジャンルを超えた輝きが全編に流れていた。カシーフの「You Give Good Love」、ナラダ・マイケル・ウォルデンの「How Will I Know」などが収められる中、マイケル・マッサーの「Saving All My Love for You」「All at Once」といったバラードにこそ、ホイットニーの力強い世界が詰まっている。
その最高峰である「Greatest Love of All」(*注)は歌うのが極めて困難な曲で、母シシーはホイットニーに「この曲が歌えたら一人前よ」と励ましていたと言われる。ミュージック・ビデオはアポロシアターで撮影され、ホイットニーの幼少時代と現在がシンクロする自伝的内容だった。母親役には実際にシシーが出演した。
全米だけで1300万枚以上も売ったデビュー作に続き、1987年リリースの2作目『Whitney』がまたしても大ヒット。7曲連続でシングル1位獲得という大記録も残した。チャートも売り上げもアワードの受賞も凄まじい勢いだった。幼い頃の地下室の夢があっという間に実現したのだ。
しかし、彼女は謙虚な姿勢を決して失うことはなかった。チャリティ活動にも積極的に参加。母の教えをそっと胸に華やかなスポットライトを浴び続けた。2作目はそんな母とのデュエット曲で閉じられる。
90年代に入ると、ホイットニーは映画界にも進出。『ボディガード』で主演してドリー・パートンの「I Will Always Love You」をありったけの魂で歌い上げ、91年のスーパーボウルでは史上最高の国歌独唱と言われる伝説まで残した。そんな人気絶頂時、同じポップスターのボビー・ブラウンと結婚。93年には出産して母親になった。
何本かの映画活動を経て8年ぶりにリリースした98年の4作目『My Love Is Your Love』以降は、時代や流行に合わせようとするホイットニーの迷いが聴き取れる。音楽シーンではヒップホップやループ感を押し出した新しいタイプのR&Bが急速にメインストリーム化していた。彼女の持ち味だった天高く舞うようなバラードには辛い時期だったはずだ。
以前よりも楽しくなくなってきてしまったの。幼い頃はすべてが楽しかったのに。年を取ってしまったと思う。ときめく気持ちはどこかへ行ってしまった。
夫婦生活の崩壊もタブロイド紙やリアリティ番組を通じて、ドラッグやDVや相手の女性問題などが暴露されてしまう。2006年に離婚。彼女自身もリハビリ施設に入った。
ホイットニーの漏らした言葉は何を意味したのだろう? それは“クイーン・オブ・ポップ”の復活を誰もが待ち焦がれていた矢先、グラミー賞を翌日に控えた深夜に悲劇は起きた。
死の直前に人前で歌った最後の歌は彼女の原点とも言えるゴスペルソングだった──ホイットニー・ヒューストンの歌声は、永遠に輝きを放ち続ける。
(*注)「Greatest Love of All」(グレイテスト・ラヴ・オブ・オール)
作曲はマイケル・マッサー、作詞はリンダ・クリード。リンダは乳がんを患った時に、自分の家族に向けてこの曲の詞を書いたと言われている。1986年4月にリンダは死去。翌月に「Greatest Love of All」はナンバーワンになった。
また、アメリカの作家ブレット・イーストン・エリスによる小説『アメリカン・サイコ』の中には、語り手である主人公が突如ホイットニー・ヒューストンの音楽について熱く評論する場面がある。そこでは「Greatest Love of All」を<自己の保存と尊厳について書かれた曲の中で最高のものであり、自分を信じるということについてのステート・オブ・ジ・アート級のバラード>と説明している。
自伝的内容の「Greatest Love of All」(グレイテスト・ラヴ・オブ・オール)のミュージックビデオ。1977年のモハメド・アリの伝記映画の主題歌としてジョージ・ベンソンが歌ったのが最初だったが、ホイットニーの歌唱で全世界に広まった。
1987年のグラミー賞で歌い上げた時の模様。だんだん泣けてくる。最後はスタンディング・オベーション。母シシーの姿もある。
ずっと昔に私は誓ったの
もう誰にも頼ったりしないって
たとえ失敗しようが成功しようが
私は自分を信じて生きていく
何もかも奪い取られたとしても
私の誇りだけは誰も奪えない
なぜならとても大きな愛が私の中に生まれたから
何よりも素晴らしい愛が自分の中にあるから
それを手にするのは容易いこと
まず自分を愛せるようになること
それが何よりも最高の愛だから
*参考/『Whitney 1963-2012』(LIFE)
*このコラムは2015年3月13日に公開されたものを更新しました。
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