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暗雲の漂う大舞台で渾身のパフォーマンスを披露したホイットニー・ヒューストン

2026.02.10

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アメリカで最も人気のあるスポーツといわれるアメリカン・フットボール。その優勝決定戦、スーパーボウルはアメリカの年間最高視聴率を記録するほどに注目され、まさに国民的イベントとなっている。

勝敗の行方はもちろんだが、試合だけでなくハーフタイムに行われるショーも見どころとなっており、中でも1993年にマイケル・ジャクソンが披露したパフォーマンスは、歴史的な瞬間として今も語り継がれている。

詳しくはこちら【マイケル・ジャクソン~伝説のハーフタイムショー】

アーティストが登場するのはハーフタイムだけではない。試合前に歌われる国歌「星条旗」もまたパフォーマンスを披露する場となっており、これまでアーティストごとに多種多様なアレンジが試みられてきた。

その中で歴代最高のパフォーマンスはどれか、というのは様々なメディアによって発表されてきたが、2位までは各紙によって順位が変わったりするものの、1位には満場一致で1991年のホイットニー・ヒューストンが選ばれている。

プロのシンガーたちの中にあっても、頭一つ抜きん出た歌唱力が存分に発揮されたこのパフォーマンスが、1位に選ばれることに異を唱える人はいないだろう。

しかし当時に時間を戻すと、本番前に関係者たちが抱いていたのは、期待ではなく不安だったというから驚きだ。

ホイットニー・ヒューストンはスーパーボウルで国歌斉唱してほしいというオファーが来たとき、すぐに音のイメージが湧いたという。どれだけの砲弾が飛んでこようと、星条旗は折れることなく翻っているというこの歌に、幼い頃から教会で歌ってきたゴスペルのエッセンスを取り込みたいと感じたのだ。

長年にわたって彼女の音楽をサポートしてきたディレクターのリッキー・マイナーは、3拍子のワルツである「星条旗」を4拍子にしようと提案した。そうすればたっぷりと息を吸う時間が得られて、よりソウルフルな歌に仕上がると考えたのだ。

そして本番直前となった1991年1月、オーケストラによるアレンジも完成し、実際にスタジオで歌ってみて、ホイットニーらはその仕上がりに確かな手応えを感じる。

ところが、その音を聞いたナショナル・フットボール・リーグ(NFL)の幹部たちは難色を示した。戦時中にこのような派手なアレンジは、不謹慎ではないかと考えたのである。

1991年1月、それはアメリカを中心とする多国籍軍がイラクへの爆撃を開始。つまり、湾岸戦争が始まったばかりだった。

懸念を抱く理由はもうひとつあった。前年のスーパーボウルにおける国歌斉唱で、かつてないほどの大ブーイングが巻き起こってしまったのだ。

そうした背景もあって、NFL側はアレンジをもっと質素なものにするよう要望する。もっとも、その要望はホイットニー側に伝わる前に、スーパーボウルのエンターテイメントを手がけるプロデューサーによって却下されるのだった。

そして本番当日となった1月27日。フロリダ州のタンパ・スタジアムには7万人以上の観衆が集まっていた。

その大観衆を前にNFLはおろか、ホイットニーとともにアレンジを作り上げて自信を持っていたリッキーでさえも、もしブーイングが起きたら、という不安に駆られた。

そんな多くの人たちの脳裏に去年のブーイングがよぎる中、ホイットニーは歌い始めたのである。



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