1961年6月4日に『シャボン玉ホリデー』が放送開始したときの視聴率は10,1%で、それが9月まで続いていたが、10月から急に16%前後に跳ね上がった。
その理由は明快だった。8月20日に発売されたクレイジーキャッツの植木等が歌った「スーダラ節」が、10月頃から大ヒットになり始めたのだ。
そこから3か月で20%に到達する回が出ると、その1年後には25%を超えるようにまでなっていく。
レギュラー出演者だったクレイジーキャッツの新曲が、テレビで真っ先に聴けるのは『シャボン玉ホリデー』だった。日曜日の夜6時半になると、テレビのある家では子どもたちが、この番組が始まるのを待ちかまえるようになった。
双子のデュオ、ザ・ピーナツが「シャボン玉、ラン、ラ、ラン」と歌うテーマ曲が流れてくると、もう胸が高まってくる。いったいどんな面白いものが飛び出してくるのか、わくわくしながらクレイジーキャッツの登場に期待して、14インチのブラウン管の画面を見つめていたものだった。
1959年から60年にかけて巻き起こった国民的な運動。それが日米安全保障条約の改定に反対する闘いだった。
だが6月に東大生の樺美智子さんの死とともに運動が敗北に終わったところで、日本はまるでスイッチが切り替わったように、3年後に迎える国家事業の東京オリンピックの成功に向けて、一挙に前向きの時代へと突入したのだ。
開催地の東京は工事ラッシュで、日に日に街の様子が変貌していった。サラリーマンの給料が大幅に上がり始めたのことで、テレビを筆頭に高価な電化製品などがよく売れるようになった。
経済の成長と拡大を目指して、人々は長時間にわたってひたむきに働いた。日本中が活気に満ちていた時代になって、テレビはもっとも身近な娯楽として定着していく。
なかでも新鮮な笑いや音楽が流れてくる音楽バラエティ番組、NHKの『夢であいましょう』と民放の『シャボン玉ホリデー』は、特に人気が高かった。そして番組のクォリティもまた、相当に高かった。
30分番組だったにもかかわらず、そこにかけられた準備や手間、内容の濃密さ、面白い番組を作ろうという意志は、今とは比較にならない。準レギュラーだった歌手、中尾ミエがこう振り返っていた。
「ええっと、まず録音の日があって、振付の日があって……。で、
水曜が本番だから、三日はリハーサルやってた。本番の日も入れてネ。
今、三十分番組でそこまで時間かけてやる仕事ってないもの。
やっぱそれなりに、今観たって、きっとレベルの高い番組だったと思うヨ」
(「シャボン玉ホリデー―スターダストを、もう一度」より)
『シャボン玉ホリデー』は毎週水曜日にVTR収録し、日曜日に放送していた。当時はテープが高価で細かな編集などは行わず、生放送と同じよう意気込みと感覚で番組を作っていたのだ。
この番組の人気を高めた張本人で、押しも押されるスターになった植木等もまた、後年になってこう語っていた。
「テレビの世界も他人の悪口を言うとか、みんな呼び捨てでハリ倒したりしてるとか。
誰かの噂をして、その噂だけで番組を作るとか、そういう傾向にあるっていうのがどうもやっぱり……。
コレ、外国人が見たときにどう感じるだろうって、まずそう思うネ。
その点、『シャボン玉』は外国人が見てもイケたんじゃないか、という感じがしますネ」(同上)
「スターダスト」の作曲者だったホーギー・カーマイケルが来日中にテレビを観ていて、自分の曲が流れてきて驚き、出演したいと思ったのも、”イケてた”からに違いない。〈参照コラム〉・「シャボン玉ホリデー」のテーマ曲として永く記憶されるザ・ピーナッツの「スターダスト」
ザ・ピーナッツやクレイジーキャッツ、中尾ミエが所属していた渡辺プロダクション」が『シャボン玉ホリデー』に期待したのは、秘蔵っ子として育ててデビューさせたザ・ピーナッツをスターにするという目的があって、会社を挙げて番組作りに協力していた。
だから当初は『ピーナッツ・ホリデー』で企画が進んでいたのが、牛乳石鹸の1社提供になったので『シャボン玉ホリデー』になったという。当時の渡辺プロダクションの副社長でプロデューサーだった渡邊美佐氏が、こんな感慨を述べている。
当時のテレビ局には本当に予算がなくて……。
私たちプロダクション側も、他のビジネスしていればそれほどガツガツする必要もない、という姿勢で取り組んでいました。
むしろ双方が一緒になって創る、それこそ寝食を忘れてクリエイティブな番組を作るという思いのほうが強かった。
その意味でも『シャボン玉ホリデー』は真の才能が結集した、本当のクリエイティブ集団が制作した番組だと思っています。(同上)
『シャボン玉ホリデー』が終わって夕食を済ませると、今度はNHKの人気ドラマ『若い季節』が始まる。そのオープニングの主題歌は、ザ・ピーナッツが歌う「若い季節」だった。そして生放送のドラマには、準レギュラーでハナ肇とクレイジーキャッツも登場していたのである。
〈参考文献〉五歩一 勇 著「シャボン玉ホリデー―スターダストを、もう一度」(日本テレビ放送網)
●この商品の購入はこちらから
●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから
TAP the POPメンバーも協力する最強の昭和歌謡コラム『オトナの歌謡曲』はこちらから。