1960年代初頭からテレビで人気が上昇していたクレイジーキャッツだが、最初の爆発は植木等の歌った「スーダラ節」の大ヒットから始まった。
そこから「ドント節」「五万節」「ハイそれまでヨ」「無責任一代男」とコミックソングがヒットし、加速度的に日本中にブームを巻き起こしていったのである。
その快進撃を支えていたのは植木等というキャラクターを確立させた、座付き作者の青島幸男による歌詞と作曲・編曲の萩原哲晶が考え出した、破天荒なソングライティングの力だった。
それがテレビ番組と映画とライブを組み合わせたトータル・プロデュースによって、それまで経験したことがない面白さを生みだしたのだ。
月曜から金曜まで放送される昼の帯番組『おとなの漫画』の構成作家だった青島幸男は、なかなかいいアイデアが生まれてこないので、毎日のように締め切りに追われて苦しんでいた。
だから安定した身分が保証されているサラリーマンのことを、どこか”気楽な稼業”だとうらやましがりつつも、一方では宮仕えの立場による息苦しさも考慮して、それらからの解放の気持ちを込めて「チョイト一杯のつもりで飲んで」から始まる歌詞を書いたという。
これが爆発的に受けたのはどこかしら意味がある前半の歌詞を受けて、後半に展開していく植木等のウキウキしてくるような調子のいい言葉、「スイスイスーダララッタスイスイ」が時流に合っていたからだろう。
このフレーズは意味は不明ながらも音楽的にノリがよかったし、得も言われぬ”おかしさ”が漂ってくるものだった。
それらを陣頭指揮していたのが渡辺プロダクションの創始者で、ゼネラル・プロデューサーでもあった渡邊晋である。
クレージーキャッツにとって、その存在と指導力は実に大きいものであった。
そもそも「スーダラ節」は植木等が機嫌がいい時に発する口ぐせだっ意味不明の「スイスイスイ」や、「スンダラダッタ」というフレーズを、歌にしようと考えた渡邊晋が『おとなの漫画』でのコントを書いていた放送作家の青島幸男に、作詞をさせることを思いついたものであった。
そこから生まれたサラリーマンの生活や気分を綴った歌詞は、「わかっちゃいるけど やめられない」という決めフレーズがハマったことで、流行語になるほどのヒットになって一斉を風靡した。
”無責任男”としてスター街道を駆けていった植木等だが、実は根っから生真面目な性格で、水もしたたるいい男だった。
ジャズ・ギタリストとしても一流の腕を持ち、かつてはオーソドックスなジャズを志していた時期もあった。
そのために出来上がった「スーダラ節」には抵抗があり、はじめのうちは歌うこと自体を嫌がっていたという。
しかし若い頃から社会主義労働運動や部落解放運動に参加し、戦時中は指導者として何度も投獄されるなど、徹底したヒューマニストであった僧侶の父親に相談すると、「『わかっちゃいるけどやめられない』は親鸞の教えに通じる」との助言をもらった。
そこで意を決して歌ったところ、レコーディングの現場ではミュージシャンが笑い転げてしまってNGが続出、異常なハイテンション状態になったという。
その時の様子を、当事者の青島幸男がこのように語っている。
歌詞が面白かったのは当然として、萩原哲晶のメロディー、およびアレンジが抜群にスットン狂で、これまでに聞いたこともない様なおかしさだった。
植木等がまた、これに輪をかけてフザケていた。
途中まで歌ってみては、すぐにフキ出しちゃって、
「ケッケッケッ‥‥‥」
と例の大声で笑いころげる。
何回も真面目な顔に立ち返っては、初めからやり直すんだけど、
--あ、うまく行くナ
と安心していると、
今度は伴奏をやっているニューハード・オーケストラの方で誰かがブッとフキ出しちゃって伴奏はガチャガチャになっちゃう。
ひどかったのは、エキストラで来てくれた特殊楽器の音楽大のお嬢さんだ。
いざ本番ってんで、植木が真剣な顔になってマイクの前に立っただけでケタケタと笑いだす始末だ。
「すみません、今度は絶対に笑いませんから」
彼女は何回も同じようなことを言って皆にあやまっては、まっ先に笑い出した。
こんなことをえんえんとくり返し、どうやら無事に録音を終了した時は、予定時間を二時間もオーバーしていた。
こうして出来上がった「スーダラ節」のレコードは大ヒットを記録し、植木等の人気がここから一気に急上昇していった。
それまでの日本にはいなかった新しいスターが誕生したのである。
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(注)本コラムは2016年5月20日に公開されたものの改訂版です。なお青島幸男の文章は「CDジャーナルムック 青島幸男読本」(監修 北中正和 青島美幸)からの引用です。
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