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サラ・ヴォーンを偲んで〜天才歌手の足跡と、ちょっと素敵なララバイ(子守唄)エピソード

2025.04.03

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1990年4月3日、天才歌手サラ・ヴォーンの訃報が伝えられ、多くの音楽ファンがその死を惜しんだ。彼女はその生涯を通じて、歌と共に酒も煙草も豪快に楽しんだというが、最期は末期の肺癌に冒され、ロサンゼルス市内の病院にて66年間の生涯に幕を降ろすこととなった。

今日はビリー・ホリデイやエラ・フィッツジェラルドと並んで、「ジャズ界の至宝」と呼ばれたサラ・ヴォーンの若き日の足跡と、ちょっと素敵なエピソードをご紹介します。


豊かな声量と、オペラ歌手にも引けを取らない幅広い音域、そして超絶的なスキャットや大胆なフェイクで、ジャズヴォーカルの頂点に君臨したサラ・ヴォーン。

その息もつかせぬバップスキャットは、ピアニストとしての知識と技量に培われたものだった。ジャズナンバーはもちろんのこと、ビートルズ、そしてカーペンターズの曲まで、ジャンルに捕らわれることなく歌いこなすセンスとテクニックに、多くの音楽ファンが魅了された。

ジャズ歌手の枠を超越した“ザ・シンガー”と賞賛され、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにもその名前が刻まれている。エラ・フィッツジェラルドはサラのことを「世界で最高の歌う才能」と呼んだ。ジャズ評論家、レオナード・フェザはこんな言葉で賞賛している。

「バップの時代から出た最も重要な歌手だ!」

1924年、サラ・ヴォーンはニューヨークに近いニュージャージー州ニューアークで生まれた。7歳からピアノを習い、その後、地元の教会のオルガン奏者兼聖歌隊員となる。

1942年、18歳になると、憧れていたアポロ劇場のコンテストで優勝し、同劇場での出演チャンスを摑む。噂を聞きつけた人気歌手のビリー・エクスタインが彼女の才能に惚れ込んだという。

ビリー・エクスタインといえば、当時フランク・シナトラが白人男性ボーカルの代表だとすれば、黒人でもっとも有名な歌手の一人として知られていた人物。サラは20歳を迎えた1944年に、エクスタインが新たに結成したビ・バップ・バンドに参加する。

同バンドには、次世代のスターとなるジャズメンたち(チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイヴィス、ファッツ・ナヴァロ、デクスター・ゴードン、アート・ブレイキー)が在籍していた。

わずか1年程の在籍期間だったが、サラはこのスーパーバンドを通じて大きな成長を遂げることとなる。自らの声を楽器になぞらえ、歌詞の内容や文字数にとらわれずに自由にアドリブを展開する“スキャット唱法”を完璧にマスターしたのだ。

翌1945年にエクスタインのバンドを辞め、ソロ歌手としてのキャリアをスタートさせ、ジャズシーンに新風を吹かせる存在となっていく。


それは1980年代に開催された来日公演で起きた出来事だった。チケットも完売となった公演当日の開演前、客席では200人程のファンがサラの登場を待ちわびていた。

いよいよ幕が上がり、ステージ上に登場し、大きな拍手が沸き起こったその時、会場内に赤ちゃんの泣き声が響き渡る。その声は前方に座っていた夫婦連れの席からだった。

会場の空気は「ジャズコンサートに赤ちゃんを連れてくるなんて周りへの配慮が足りないのでは?」と、決して好意的なものではなかった。

事情はわからないが、その夫婦にとっては(赤ちゃんを連れてまでして)彼女の歌を聴きにくるのには、なにか特別な理由があったのかもしれない。慌てて赤ちゃんを連れ出そうとして母親が席を離れようとした瞬間だった。

スポットライトの中にいたサラ・ヴォーンがステージから降りて、微笑みながら赤ちゃんと母親のところまで歩み寄って行った。200人の観客とバンドメンバーやスタッフが注目する中、彼女は赤ちゃんに向かって子守唄を歌い出したのだ。

すると、今まで泣いていた赤ちゃんがスヤスヤと眠ってしまったという。彼女はその夫婦に優しくうなずくような仕草をみせてステージの上に舞い戻り、何ごともなかったかのようにいつも通りの最高のステージで客席を楽しませた。

そんなエピソードから、彼女の人柄と歌手としての器の大きさを感じずにはいられない。

参考/引用 :

♪Lullaby of Birdland(バードランドの子守唄)


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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

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