スタジオジブリ最大のヒット作となった『千と千尋の神隠し』のエンディングテーマ、木村弓の「いつも何度でも」はハイトーン・ヴォイスが特徴的な楽曲だ。
宮崎駿作品のファンだったという木村弓が『もののけ姫』に大きな感銘を受け、いてもたってもいられなくなって、宮崎監督に自らが歌ったCDを添えた手紙を出した。
それに対して宮崎から、「今企画中の作品があるが、まだどうなるかわからない。実現するときには、声をかけるかもしれません」という旨の返事が届いたという。
その企画は『煙突描きのリン』というタイトルで、度重なる大地震で瓦礫の街と化した東京を舞台に、銭湯に居候することになった画家志望の少女、リンを主人公とするものだった。
ある日、「いつも心踊る夢を見ていたい」というフレーズが浮かんだ木村弓は、そのフレーズこそ、悲惨な状況でも負けずに夢に向かって進む少女にふさわしいと感じて、詩人の覚和歌子に歌詞を書いてもらうことにした。
そして生まれたのが「いつも何度でも」だった。
さっそく音源を宮崎に送ったが、残念ながら『煙突描きのリン』の企画が実現せずに流れてしまう。
しかし楽曲を気に入っていた宮崎は、次の作品の作業を進める際に「いつも何度でも」をよく聞いていたという。
その作品こそは『千と千尋の神隠し』だった。
『千と千尋の神隠し』にも風呂が重要な舞台として登場し、主人公の千尋にはリンと共通する芯の強さがあった。
『煙突描きのリン』の息吹が、残されていたのである。
宮崎監督はエンディングテーマとして、「いつも何度でも」を映画に採用することを決める。
その知らせが木村弓に届いたのは、すでに予告編が公開された後だったので、とても驚くと同時に不安にかられたという。だが、実際に映画が公開されると大好評で社会的な大反響を巻き起こし、やがて日本映画史上最大の興行記録を打ち立てた。
「いつも何度でも」から始まった宮崎との縁は、次回作となる映画『ハウルの動く城』にまで続くことになった。
木村弓は詩人の谷川俊太郎とのコンビで、倍賞千恵子が歌った主題歌「世界の約束」を作曲したのである。
参考サイト:
音楽家 木村 弓さん | スペシャル対談~藤本裕子が各界トップに迫る