曽我部恵一(ボーカル/ギター)、田中貴(ベース)、丸山晴茂(ドラム)の3人からなるサニーデイ・サービス。1994年にメジャー・デビュー以降、街に棲息する若者たちの暮らしぶりや心象を鮮やかに切り取っていく作風で、多くの支持を得てきたロック・バンドだ。『東京』『愛と笑いの夜』『サニーデイ・サービス』をはじめ数々の名盤を発表してきた彼らは2000年に一度解散したものの、2008年に再結成。以降、マイペースに活動を続けている(現在、丸山は療養のため活動休止中)。
2016年8月には通算10枚目となるオリジナル・アルバム『DANCE TO YOU』をリリース。永井博が手掛けたイラストレーションのジャケットも記憶に新しいこのアルバムは、バンド史上もっとも長い時間をかけて制作されたという作品で、随所にディスコ/ダンス・ミュージックのエッセンスも取り入れながら実に濃密なポップスに仕上がり、バンドの新たな扉を開けた作品として高い評価を集めた。
充実の『DANCE TO YOU』からなんと約10ヶ月という短いインターバルで完成した、サニーデイ・サービスのニュー・アルバム『Popcorn Ballads』。前もっての情報もなく6月2日に急遽発表された本作は、全22曲85分というボリュームもさることながら、リリース形態がCDやレコードではなく、Apple MusicとSpotifyのストリーミング配信のみというスタイルも大きな話題となった。発表後の6月9日には、ボーカル/ギターの曽我部恵一が一部の収録曲のミックス/マスタリングを変更したとTwitterで報告。CDやレコードでの発売ではまず不可能な、アルバムの完全版を随時アップデートしていくという型破りなスタイルにも驚かされた。
リード曲「青い戦車」で幕を開ける『Popcorn Ballads』は、前作で見せたダンス・ミュージックへの接近をさらに色濃くしたような、ミニマムなファンク曲が序盤から続く。ドラマーの丸山が休養という事情も反映してか打ち込みのリズムが多用され、またオートチューンなどボーカル処理を施した楽曲があったりと、斬新なアプローチも衒いなく披露していく様が痛快だ。
かと思えば、以前からのサニーデイらしさを感じさせるようなメロウなポップスもあったり、どこか美しい狂気を感じさせるエフェクト過多なウォール・オブ・サウンドが顔を出したり、さらには1分にも満たない50’sテイストなロックンロールも飛び出したりと、曽我部の脳内に浮かんだ言葉とメロディとサウンドを、フレッシュなまま形にしていったような楽曲が並ぶ。
後半にすすみ、ふたたびファンク度高めなポップ・チューンが続く中、ドロッとした熱量を感じさせる「流れ星」、アップ・トゥ・デイトなソウル/R&Bの薫りをまとった「金星」「すべての若き動物たち」、サイケデリックでメランコリックな「透明でも透明じゃなくても」、ノイジーなギターが印象的なグラマラスなロックンロール「サマー・レイン」……と、聴き手に強烈な後味を残す楽曲が、立て続けに繰り出される。『DANCE TO YOU』が作り込まれたポップスの濃密さを表現した作品だったとすれば、最新アルバム『Popcorn Ballads』はラフカットだからこその異彩なきらめきを放つ怪作であり、快作だ。
と、ここまでがストリーミング配信開始時に紹介した文章なのだが、この『Popcorn Ballads』というアルバムは、まだまだ進化の途中にあったのだ。
ストリーミング配信されてから約半年の間に、収録曲の新作MVが断続的に発表されながら、作品の制作は継続。すでに発表済の楽曲にリアレンジやリミックスが施され、また泉まくらを客演に迎えた「はつこい」、7インチでシングルカットされた「クリスマス」をはじめ数曲の新曲も加えられて(さらには曲順や構成も大幅に改訂された)、2枚組25曲100分超えの『Popcorn Ballads(完全版)』としてCDとアナログのフィジカルな形態でのリリースが実現した。
AppleMusic、Spotifyのストリーミング配信限定リリースから、時間が経つごとにアップデートを繰り返し、新たな大作として生まれ変わった『Popcorn Ballads』。内容の充実もさることながら、ネット配信とフィジカルリリースが混在する現在の音楽シーンの利点と欠点を浮かび上がらせ、また自由な表現スタイルとリリース方法の可能性を模索した画期的な作品としても長らく語り継がれることになるだろう。
19年ぶりの日比谷野音ワンマンの模様を収めたDVD『サニーデイ・サービス in 日比谷 夏のいけにえ』と、『Popcorn Ballads』収録曲「クリスマス」の小西康陽リミックスを収めた7インチ『クリスマス -white falcon & blue christmas- remixed by 小西康陽』も発売中。
official website
http://rose-records.jp/
http://www.sokabekeiichi.com/
*本コラムは2017年6月10日に初回公開された記事に加筆修正を施したものです。