1992年8月30日、イギリス南部で毎年開催されている世界最大級のフェス、レディング・フェスティバルの最終日。そのトリを飾るのはカート・コバーンを中心とする3人組のバンド、ニルヴァーナだった。
アメリカ西海岸の最北部に位置するワシントン州で結成されたニルヴァーナは、1991年にリリースした2ndアルバム『Nevermind』の大ヒットによって世界のロックシーンを変革させる。
レディング・フェスへの出演が決まったのはその翌年のことだが、一方でカートはドラッグ中毒に陥り、リハビリ施設に通う日々を送っていた。
ドラムのデイヴ・グロールはフェスの直前まで不安を抱えていたという。
「前日の夜にリハーサルを一度したんだが、いい内容とは言えなかった。『これは大惨事になる、俺たちのキャリアも間違いなく終わるだろう』と真面目に思ったよ」
車椅子で押されながらステージに現れた患者服のカートの姿に、客席はざわめいた。マイクのところまで案内されたカートがよろめきながら立ち上がって歌い出すと、会場は静まり返る。
ある者は言う
愛とは川であると
それはカートと同じく27歳でこの世を去ったシンガー、ジャニス・ジョプリンをモデルにした映画、『The Rose』の主題歌だった。
ワンフレーズを歌ったところでカートは後ろに倒れ込むが、しばらくすると何事もなかったかのように立ち上がる。おそらくはリハビリ施設での自分の姿を観客に見せるための演出だったのだろう。ギターを取りに行ってステージ中央に戻ると、そこからのちに伝説と呼ばれることになる圧巻のライブが始まる。
その模様は目撃したファンの証言やブートレグによって伝えられてきたが、17年後の2009年にようやくオフィシャルのCDとDVDがリリースされ、改めてその一部始終が世界中に知られることとなった。
DVD版「ライヴ・アット・レディング」
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