ニルヴァーナのドラマーだったデイヴ・グロール。
1994年、カート・コバーンの突然の死から半年後、その深い悲しみを断ち切るようにたったひとりで始めたフー・ファイターズ。
ドラム・スティックをギターに持ち替え、デイヴ・グロールはヴォーカリストとしてフロントに立つ覚悟を決めた。
次第に仲間が集まり、メンバーチェンジを繰り返しながら、フー・ファイターズは昨年20周年を迎えた。
その記念アルバム『ソニック・ハイウェイズ』は、シカゴ、オースティン、ナッシュビル、ロサンゼルス、シアトル、ニューオリンズ、ニューヨーク、ワシントンDCというアメリカの8つの都市を訪ね、各都市の歴史的なスタジオで1曲ずつ録音した全8曲のアルバムだ。
プロデューサーには、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』を手がけたブッチ・ヴィグ。
レコーディングと並行して、各都市でアメリカ音楽に関係する合計100人を訪ねてインタビューを行うというプロジェクトも進行した。
インタビュー中の言葉やフレーズの中からヴォーカル録りの前日に歌詞を書き上げていったという。
また、インタビューを行った中から各一人がゲストとしてレコーディングに参加しているのも、アルバムの聴き所のひとつだ。
1時間の1エピソードで1都市ずつ、全8エピソードのドキュメンタリー番組も制作され、昨年アメリカHBOで放映された。(日本でもWOWWOWで放映された)
そして、そのDVDが日本では7月8日に発売される。
このインタビューの中で、ニューヨーク・シティの地下に川が流れていることを知ったデイヴ・グロールは、最初このシリーズのタイトルを『Underground River(地下を流れる川)』にしようと思っていた。
なんて美しいメタファーなんだって思った。
地下を自然の水流が流れているんだ。
その流れにエネルギーがある。
しかも俺たちはその存在を知らない。
たぶん俺たちも自分たちの知らないところで繋がっていて、俺たちの下では流れが出来ているんだよ。
だから、最初はそれをタイトルにしようと思ったんだ。
それで、他のインタビューをやってる時に、みんなどこかで何かによって繋がっていて、それが歴史になっている、っていう話になったんだ。
その繋がりは大きな家系図みたいなものなんだよ。
シカゴで録音されたアルバム1曲目、「SOMETHING FROM NOTHING」ではこのように歌われている。
川があるのを見つけたんだ
荒野の中
大地の下に
さあ行くぞ
そして、アルバムのラストを飾るのが「I AM A RIVER」。
アメリカ音楽を掘り下げた時に、それがまるで大きな家系図のように繋がっていることを見出したデイヴは、その川の流れーアメリカ音楽史の流れの中に、自身の音楽をきちんと位置づけたかったのだろう。
これはアメリカ音楽史へのラブレターだ
アルバム『ソニック・ハイウェイズ』について、そう語るデイヴ・グロール。
長いラブレターのラストに決まって書くのは、相手に対する思いへの固い決意や覚悟ではないだろうか。
カートの死のショックによる失意のどん底から、再びデイヴを音楽に向かわせたのは、彼の音楽に対する前向きな愛と情熱にほかならない。
あれから20年「I AM A RIVER」は、真摯に音楽に向き合ってきたデイヴの新たな決意が感じられる1曲なのだ。
(阪口マサコ)
※参考文献:クロスビート・スペシャルエディション「デイヴ・グロール」シンコーミュージック
文中のデイヴ・グロールの言葉はクロスビートのインタビューより引用しました。