1969年、人気番組エド・サリバンショーに初めて出演したジャクソン5は、デビュー・シングルの「帰ってほしいの(I Want You Back)」と、そのB面だったスモーキー・ロビンソンとミラクルズの「Who’s Loving you」の2曲を歌った。
「Who’s Loving you」はその少し前の7月に行われたモータウンのオーディション時にも披露していたが、生きることの哀しみを感じさせる大人の歌だった。
マイケルはオーディションでこの歌を歌ったときのことを、自伝でこのように書いている。
でもその曲が終わっても、誰も拍手をしてくれなかったし、何も言ってくれませんでした。どういうことなのか知りたくて、僕は思わず叫んだのです。「どうだった?」
しかし大人たちは笑みを見せるだけでマイケルは納得のいく答えを得ることはできず、混乱したまま帰路につくのだった。モータウンの創始者だったベリー・ゴーディーは、そのときの心境についてのちにこのように語っている。
特にまだ少年だったマイケルは、実年齢とかけ離れたパフォーマンスで私たちを圧倒。ジェイムス・ブラウンやジャッキー・ウィルソンのように歌って踊って見せた後、スモーキー・ロビンソンの「Who’s Loving You」という曲を歌ったのだ。
その歌声には、長い苦悩と悲哀の人生を生き抜いてきた男のもつ、悲しさと情熱が感じられた。たかが子供なのに…、信じられない !スモーキー本人がどんなにうまく歌ったとしても、目の前のマイケルにはかなわなかっただろう。
マイケルは大人の歌を完璧に唄いこなしたことで、拍手も忘れさせてしまうほどに大人たちを驚かせていたのだ。
ゴーディーはその場に立ち会っていたスモーキーに向かって思わず「おいおい、この子に持っていかれたみたいだな」と言い、スモーキーも「同感だ」とうなずいてみせた。
スモーキーは作詞・作曲・プロデュースの面でベリー・ゴーディーの片腕としてモータウンを支えて活躍、会社経営にまで力を発揮していた。
しかしマイケルにとってはザ・ミラクルズのリーダーであり、憧れのスターだった。初めて握手をしたときには「王様と握手しているみたい」だったという。そのスモーキーまでもを圧倒してしまったことからも、マイケルの歌唱力がいかに桁外れだったかが伺える。
ほどなくしてマイケルたち兄弟はモータウンと契約してデビューが決まり、そのプロモーションとして人気番組の『エドサリバンショー』に出演した。
冒頭にマイケルが視聴者に対して話しかけて、そのまま歌とコーラスが始まった
「ある日、学校の砂場で遊んでいた時に出会った女の子のことなんだ・・・
おやつの時間にボクたちの愛に乾杯したよ
その子にはボクの分のクッキーをあげた
それから、お絵かきの時間にケンカして別れて
そう、ある日のこと、あれば月曜日だった
ボクはその子の前でこう言ったんだ」
君と一緒にいたとき
大好きなのに酷いことをしちゃったね
ぼくが間違っていたよ
分かるでしょ
君がいなくなってからずっと
僕は頭を抱え込んでいたんだ
この時、多くの視聴者もまた、ゴーディやスモーキーと同じような思いをしたに違いない。
シングル「I Want You Back」は1970年1月に全米1位となり、マイケル・ジャクソンは幼くしてモータウンの新しいシンボルになっていくのだった。

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