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トム・ウェイツOl’55を聴きながら〜父への想い、若き日の路上への憧れ…そしてハイウェイ沿いで目にした光景

2023.12.05

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1959年、トム・ウェイツの両親は離婚した。当時、彼はまだ小学生だった。
「親が離婚したとき、俺はまだ10歳だった。親父はそれから2回再婚して、母親もようやく私立探偵と再婚したよ」

トムは、父親のフランクについてこう述懐している。
「本当にタフな男だった。オレンジ園で眠り…反逆に次ぐ反逆、そんな生き方だった」

時はすぐに過ぎ去ってゆく
俺は急いで愛車の55年製に飛び乗った
ゆっくりと車を出すと神聖な気分になった
ほんとうに生きている感じがしたのさ


トムは、父の名前を自身が80年代に発表したアルバム(3部作)の歌詞の中に度々登場させている。さらには2004年に発表したアルバム『Real Gone』には、「Sins of My Father」という曲を収めた。


あるインタビューで、自分の父親のことを尋ねられたトムは、聖書を引用するかのようにこう切り返した。
「俺の親父だろうと、あんたの親父だろうと、親の罪は子に報う。わかりきったことさ」

両親が離婚すると、トムは母親と姉達とナショナルシティーに移り住んだ。サンディエゴの外れにあるその町は、面積のほとんどを海軍基地の広大な敷地が占め、常に何千人という兵士が移動の途中に立ち寄っていた場所である。

そんな町で育ったトムは青年に成長すると、頻繁に一人旅をするようになる。車で何時間もかけて父と母の間を行き来していたのだ。ひたすら高速道路を飛ばしているうちに、いつの間にか“路上を走り回ること”そのものが好きになっていったという。

「初めて自分の車を手に入れたのは14歳の時だったよ。ある意味、アメリカの伝統みたいなもんで、免許を取ることが成人式の代わりなんだ。車を持っててもヒーター無しじゃ冬場はきつい。特に空気は離婚前のかみさんより冷たい時はね(笑)」

またトムは、あるインタビューで、自分の車遍歴を愛情たっぷりにこんな風に語っている。

「56年型マーキュリー、55年型ビュイック・ロードマスター、55年型ビュイック・スペシャル、55年型ビュイック・センチュリー、58年型ビュイック・スーパー、黒の54年型キャデラック4ドアセダン、65年型サンダーバード、49年型プリマス、62年型コメット…」

一台一台車種を慈しむように暗唱してみせるその姿は、まるで昔のガールフレンド名簿の朗読のようだ。

町を飛び出したいという切なる願い、父親とのドライヴという特別な想い出、そして10代の頃に抱いたジャック・ケルアックへの漠然とした憧れから、トム・ウェイツは路上に出て行った。

彼にとって路上=自由だった。

車を飛ばし、ラジオのつまみを回しながら何キロも走り続ける。聴こえてくるのはハンク・ウィリアムス、レイ・チャールズ、ハウリン・ウルフ、チャーリー・リッチ、ジェームス・ブラウン、レッドベリー、フランク・シナトラ、リトル・リチャード…。

「音楽を聴きながらカリフォルニアからニューヨークを目指すんだ。最新型フォードで朝早く出発してね。アメリカって国はとてつもなく広くて、車を一方向に向けたら、それから一週間一度もハンドルを切らなくたっていい。まるで空を飛んでいる気分さ(笑)」

若き日のトムは、路上のどこかで自分の知らない人生を垣間みた。道の果てのさらに向こう、学校からも居心地のいい郊外からも遠く離れた世界を見たのだ。ハイウェイ沿いで目にした光景は、トムの記憶に鮮明に焼きついていた…。

今、太陽は昇り
俺は幸運の女神を乗せて走る
高速道路、車とトラック
星は消えはじめ、俺がパレードを先導する
もう少し長居してもよかったかな
神様、そんな気持ちが胸に広がっていくよ



<引用元・参考文献『素面の、酔いどれ天使』パトリック・ハンフリーズ(著)金原瑞人(訳)/東邦出版>


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執筆者
【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【公演スケジュール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12660299410.html

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