「Listen, Baby(いいかい、ベイビー)」
この優しい台詞のような歌い出しから始まる「Ain’t No Mountain High Enough」は、ソウルミュージック史上“最高峰のデュオ”とも云われたマーヴィン・ゲイ&タミー・テレルが1967年4月に発表したもの。二人が出会って初めて一緒に歌うことになったのがこの曲だった。
♪「Ain’t No Mountain High Enough」/マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル
マーヴィン・ゲイの代名詞的な曲と云えば、1971年に発表された「What’s Going On」だが、実はその数年前から彼は“デュエットの達人”とも言われ、モータウンの看板歌手として人気を博していた。
彼がデュオを組んだ女性は1964年のメリー・ウェルズ、次にキム・ウェストン、そして1967年からタミー・テレル、1973年のダイアナ・ロスという順番になる。
タミーと出会った時のことをマーヴィンはこんな風に語っている。
タミーとリハーサルしたら、その声がいっぺんに気に入ってしまった。それに僕の歌のスタイルとぴったり合うんだよ。あれはうれしかったね。タミーはすごくきれいだった。惚れ惚れしたよ。独特なスタイルと歌い方を持っていた。僕は彼女と一緒に仕事をしたいと思った。彼女が気に入ったからね。美人で親切だったな。優しくてあったかくて、可愛かったが、人に誤解もされた。うん、彼女と仕事をするのは楽しかったよ。
曲をレコーディングするにあたって、マーヴィンは彼女が心地よく歌えるように心を砕いた。相手を包み込みながら出過ぎず、女性の声を引き立てるという姿勢を崩さないマーヴィンは、歌の中だけではなく彼女に対してのバックアップを惜しまなかった。そうして完成したこの曲は、当時のポップ・チャート19位、R&Bチャート3位まで上昇する。
一方、タミー・テレルと云えば、元々恋仲でもあったジェームズ・ブラウンに見い出された実力派で、二十歳にも満たない頃から期待を集めていた逸材である。
その生い立ちをさかのぼれば…1945年、フィラデルフィアでモンゴメリー家の娘として生まれた彼女に対して、男の子の誕生を望んでいた両親は「トミー」と名付けた。
普通の家庭で育ちながらも、彼女は親の勧めで子供の頃から音楽教育を受けいた。母親には精神疾患があり、タミー自身も幼少期から頭痛に悩まされていたという。11歳の時に近所の少年達に暴行を受け、この事件以来「タミー」と改名する。
15歳になる前に、タレントショーに出演し歌手としての道を目指し始める。彼女はしだいに人気者となり、学校を優先しながらもレコードも出し、ツアーをするまでとなる。
二十歳でモータウンと契約するが、この時にモンゴメリーという本名が覚えにくく長いことから、インパクトのある「テレル」に変えられる。その当時、タミーはボクシング選手やテンプテーションズのデヴィッド・ラフィンなどと浮名を流していたが…彼女が選んだボーイ・フレンド達は皆暴力的だった。
ほどなくして彼女は、同じモータウン所属のマーヴィン・ゲイと組むチャンスに恵まれる。当初、二人はそれまでのデュオにならって別々の録音ブースでレコーディングをしようと試みていたが、この「Ain’t No Mountain High Enough」を歌う際に、思い切って同じ部屋で二人が並んで歌うスタイルに挑戦した。
そのテイクは素晴らしい輝きを放ち、臨場感溢れる愛のデュエットして多くの人達に親しまれるものとなった。この曲でマーヴィンは、声の発し方やフレージングにおいて素晴らしくセクシャルな歌唱を披露している。歌詞の内容に合わせて、男っぽい面とナイーヴな面を両方を実に上手く表現しているのだ。
一方、タミー・テレルの声は活き活きとし、「どんなことをしてでも愛を貫くわ!」と言わんばかりの勢いに溢れている。彼女の声はダイナミックでメリハリがあり、女性ヴォーカル特有の艶っぽさも持ち合わせていて、それがマーヴィンの力強くセクシーな歌声と上手く重なり合い、まさに“最高峰”のデュエットとなっている。
♪「Ain’t No Mountain High Enough」/マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル(プロモーション用のレコーディング動画)
是非「二人の歌・後編〜タミー・テレルの死、そして影武者疑惑〜」も併せてお楽しみ下さい♪

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