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I’ve Got Life!私は生きている!〜伝説の歌手ニーナ・シモン

2023.04.22

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時代を超えて人々を惹きつけて止まないニーナ・シモン。黒人女性としての誇りと尊厳を歌いあげた、伝説のシンガーソングライターとして音楽史にその名を刻んだアーティストである。

1933年にアメリカ南部の貧しい黒人家庭のもとに生まれた。60年代には公民権運動に積極的に参加し、様々なメッセージを込めたシニカルで大胆な楽曲を数多く残した。2003年4月21日に乳ガンで息を引き取るまで力強く生き抜いた人である。享年70だった。

他界から12年後の2015年、そんなニーナ・シモンの歌手という側面だけではない、真の姿に迫ったドキュメンタリー映画『What Happened, Miss Simone?』が、米国の動画配信サービス“Netfilx”にてストリーミング公開された。

ドキュメンタリー『What Happened, Miss Simone?』Official Trailer


映画のタイトルになったこの“What Happened, Miss Simone?”という言葉は、アメリカの活動家であり詩人のマヤ・アンジェロウが書いた記事から引用したものだという。

監督に抜擢されたのは、これまでにも数々のドキュメンタリー映画を手がけたリズ・ガルバスという女性監督だ。彼女は、ルイジアナ州刑務所の暴走的な日々の様子を囚人の視点から描いた『The Farm: Angola USA』(1988年)や、伝説のチェスプレイヤーのドキュメンタリー『Bobby Fischer Against the World』(2011年)、そして日本でも公開され話題となった『マリリン・モンロー 瞳の中の秘密』(2013年)などで高い評価を受けてきたベテラン監督。

ほとんどの伝記的なドキュメンタリーは、対象に起きた良い出来事と悪い出来事を年代順に並べ、誰かが対象について褒めたり業績を讃えたりする映像を入れ込んだ“四角四面”の表現で作られていることが多いのだが、本作はニーナ・シモンという複雑な人物を、実に手の込んだ方法で描いた力作だ。

What-Happened-Miss-Simone-poster
このドキュメンタリー映画『What Happened, Miss Simone?』の公開と連動して、ニーナの音楽を敬愛し、その生き方に賛同するアーティストたちによるカバー曲を収録した記念すべきトリビュートアルバム『Nina Revisted: A Tribute To Nina Simone』がリリースされた。

「自分たちが生きている時代や現状を作品に反映させる、それが(アーティストとしての)自分の使命」と語っていたニーナ・シモンの、純粋で勇敢な生き方にインスパイアされたMs.ローリン・ヒルを中心に、ニーナ・シモンの娘で“シモーネ”名義の歌手活動でも知られるリサ・シモン、ニーナ・シモンの伝記映画でニーナ役で主演を務める予定もあったメアリー・J.ブライジ、レイラ・ハサウェイ、アリス・スミス、そしてオーストラリア出身の新人女性歌手でデビュー曲をクインシー・ジョーンズがバックアップしたことでも話題のグレイスらが参加。

また、人気ラッパーのコモンや、R&Bスターのアッシャー、グラミー授賞ジャズシンガーのグレゴリー・ポーターなど男性アーティストも参加している。このアルバムはMs.ローリン・ヒルがプロデューサーとしても関わっており、彼女と並んでグラミーアーティストであり現代ジャズ界の最重要ピアニスト/プロデューサーのひとり、ロバート・グラスパーも共にプロデュースを務めていることでも注目を集めている。

Ms.ローリン・ヒルといえば、1994年にフージーズの紅一点メンバーとして鮮烈なデビューを飾り、1998年にソロに転身後も大成功を収めた女性シンガー/ラッパー。今回、彼女がカヴァーした「Ain’t Got No…I’ve Got Life」=「I’ve Got Life(Version)」は、ニーナ・シモンのオリジナル楽曲をサンプリングしながら、ラップにのせて現代のアメリカ社会における問題を提起する全く新たな曲として生まれ変わっている。

アメリカのメディアでは「ローリン・ヒルはニーナ・シモンへのトリビュート作品で輝きを見せている」(Newsday)、「ローリン・ヒルの創造力がこの作品に与えるものは偉大」(Daily News)など絶賛の声が続々とあがっている。

「Ain’t Got No…I’ve Got Life」/ニーナ・シモン

「I’ve Got Life(Version)」/ Ms.ローリン・ヒル

このドキュメンタリー映画『What Happened, Miss Simone?』の仕掛人(プロデューサー)であるジェイソン・ジャクソンは、Ms.ローリン・ヒルのマネージャーとしてその手腕を発揮していた経歴の持ち主だ。

1999年のある日、晩年のニーナ・シモンがMs.ローリン・ヒルの控え室(楽屋)を訪れたことがあった。ジェイソンは、その時の様子をこんな風に語っている。

「私には彼女(ニーナ)が誰か分からず、追い返そうとしていたんだ。するとローリンの母親が泣いていてね。なぜ泣いているのか訊ねたら、ローリンの母親がなんとか口に出した言葉が、『あれはニーナ・シモンよ。私のヒーローだわ』だったんだ。それをきっかけに、私はニーナについて学び始めたんだ」


この“楽屋での出会い”が、ドキュメンタリー映画『What Happened, Miss Simone?』、そしてトリビュートアルバム『Nina Revisted: A Tribute To Nina Simone』の製作へと繋がっていったのだ。

人の出会いには偶然などなく、すべては必然なのだという話を聞いたことがある。信じる信じないは別として…こんな出会いから生まれた素晴らしい作品の完成を、天国にいる本人もきっと喜んでいるのではないだろうか?

「I’ve Got Life!私は生きている!」

Ms. ローリン・ヒル、アッシャー、メアリー・J.ブライジ、リサ・シモン他…『Nina Revisted: A Tribute To Nina Simone』(国内盤)

Ms. ローリン・ヒル、アッシャー、メアリー・J.ブライジ、リサ・シモン他…『Nina Revisted: A Tribute To Nina Simone』(国内盤)

(2015/ソニーミュージックエンタテインメント)


ニーナ・シモン『The Essential Nina Simone』(国内盤)

ニーナ・シモン『The Essential Nina Simone』(国内盤)

(2015/ソニーミュージックエンタテインメント)

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