その船の名はエドモンド・フィツジェラルド号。
1958年にアメリカで製造され、「最大の貨物船」と言われて当時のアメリカの勢いを象徴する存在だった。
1975年11月10日、強風警報を無視してスペリオル湖へ出航した船は嵐に巻き込まれた。
通常より多い荷を積んでいた事もあって、走行不能に陥り難破。
生存者はなく、その後湖底で真っ二つに割れた状態で沈んでいる状態で発見された。
タイタニック号同様、不沈と思われた大型貨物船が沈没したことは、多くの人に衝撃を与え、五大湖史上最悪の事故として今もその名は語り継がれている。
翌1976年、この悲劇を題材にした一曲の歌がある。
カナダ出身のシンガーソングライター、ゴードン・ライトフットが紡いだ「The Wreck Of The Edmund Fitzgerald (エドモンド・フィッツジェラルド号の難破)」は、当時のアメリカ人のプライドに訴えかけヒットチャートを駆け上った。
その歌はサビもなく、同じヴァースが延々とリピートされるものだった。
時を同じくして、ロッド・スチュワートがヒットさせた「Tonight’s the Night (Gonna Be Alright)」の人気に阻まれ、惜しくもチャートのトップ獲得とはならなかったが、グラミー賞の最優秀楽曲賞にもノミネートされるほどの評価を得た楽曲だった。
1つのメロディを約6分半繰り返す曲なので、英語圏以外の音楽ファンにとっては歌詞の内容が理解できないと“ただ退屈な歌”なのかもしれない。
その歌詞には、遭難事故を“伝説はチペワ族の時代から生き続けている”と繰り返し綴られている。
チペワ族とは、アメリカ及びカナダの先住民族(インディアン)のことである。
この曲を作ったゴードン・ライトフットとは、どんな人なのだろう?
1938年カナダのオンタリオで生まれた彼は、現在77歳の現役アーティストだ。
50年代の終わりにロサンゼルスへ移住し、職業作曲家として活動していたが、イアン&シルビア(1960年代に活躍した カナダの夫婦フォーク・デュオ)が取り上げた彼のの曲「朝の雨」や「For Lovin’ Me」をきっかけに米国のフォークファンの注目を集め、1974年にリリースした楽曲「Sundown」では全米チャートの第1位を獲得する。
彼の作詞能力に関しては、ボブ・ディランをも唸らせる才能があると言われている。
実際60年代にディランは「私はゴードン・ライトフットのファンだ」と、公言しているのだ。
──古くからその土地に伝わる「伝説」や、実際に起きた「ニュース(事件・事故)」を歌にすることは、ソングライターにとって「喜怒哀楽」や「メッセージ」を歌にすることよりも高度なテクニックが求められる。
耳触りのいい言葉がならべられた流行歌に食傷気味ならば、たまにはこんな歌はどうだろう?
伝説はチペワ族の時代から生き続けている
五大湖が“ギッチェグミー”と呼ばれていた時代から
11月の空が掻き曇るときに、湖は犠牲者を求めると言う…
エドモンド・フィッツジェラルド号は
2万6千トンを超える鉱石を積んでいた
良き船とクルーは、11月の嵐に粉々にされたのだ