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エヴリィ・グレイン・オブ・サンド~先達たちの遺産

2015.12.10

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数多く存在するディラン伝説のひとつが、その名前だ。
ロシアでの迫害からの逃れてアメリカへやってきたユダヤ系移民の孫としてミネソタ州で生を受けた時、彼の名はロバート・アレン・ジマーマンだった。だが、彼はニューヨーク、グリニッチ・ビレッジに現れると、ボブ・ディランと名乗り、一躍時の人となったのである。

ディラン・トマスからとったのではないか。
多くの人たちがそう考えている。
ディラン・トマスは1914年生まれの20世紀を代表するウェールズの詩人。1953年にプロモーションでニューヨークを訪れた時、ホワイト・ホース・タバーンという店で大量のウイスキーをストレートで飲んだことが原因で39歳の生涯を閉じている。

だが、ボブ・ディラン自体は、この説を1978年のプレイボーイ誌のインタビューで否定している。

「いや違う。ディラン・トマスはあまり読んだことはない。彼の詩篇のどれかを読んで、これだ!ってことで私の名前をディランに変えたなんてことはね。もし彼が偉大だと思えば彼の詩を歌にしただろうし、単に名前をトマスにすれば済むことじゃないかね」


ダニエル・マーク・エプスタインが書いたボブ・ディランの自伝によれば、ヒントは50年代に流行った西部劇にある。法と秩序のため、無法者と戦う保安官、マット・ディロンの活躍を描いたテレビ・シリーズ「ガンスモーク」である。

ジェームス・アーネスが演じたこの保安官は、少年時代の(まだロバート・ジマーマンだった頃の)ボブ・ディランのヒーローだったというのだ。
だが、デビュー前のディランは、ジャック・フロストとも名乗っている。これはおそらく、アメリカの詩人、ロバート・フロストと「路上」で有名な作家、ジャック・ケルアックの名前を合成したものだろう。

ただ間違いないのは、ボブ・ディランが相当な勉強家であった、ということだ。彼は「ボブ・ディラン」という名前のもと、先達たちの遺産ともいえる言葉を彼なりに再構成し、発展させ、まったく新しい「ボブ・ディラン」という表現形態を作っていったのである。

1979年にキリスト教に改宗したディランは、ゴスペル三部作とも呼ばれる3枚のアルバムを発表するが、3作目『SHot Of Love』の一番最後に収録されているのが「一粒一粒の砂」という意味の「Every Grain Of Sand」だ。
「インスピレイションでできた曲だ。どこからかやってきたものを私は言葉に認めただけだ」とディランは語っているが、そのインスピレイションの種子となったのは、明らかに、かつて彼が読んだであろうウィリアム・ブレイクの詩の一節だ。

ブレイクは「無垢の予兆」と題された詩で、次のような言葉を綴っている。

 一粒の砂の中に世界を
 一輪の花の中に天国を見るには
 君の掌で無限を握り
 一瞬のうちに永遠を掴むことだ


 そして、ディランはこう歌ったのだ。

 過去の過ちを振り返るようなことはせず
 私はカインの如く、断ち切るべき出来事の鎖を見据える
 時が激しさを増す時、そこに私は主の存在を感じる
 打ち震える木々の葉に、一粒一粒の砂の中に。。。



Bob Dylan『Shot of Love』
Sbme Special Mkts.

※このコラムは2014年3月6日に初回公開されました

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