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ジョニー・マーの少年時代〜忘れられない音楽体験、アイルランド移民の子として生まれて…

2019.05.26

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ジョニー・マー。
1980年代にザ・スミスの中心メンバーとして活躍し、オアシスのノエル・ギャラガーや元スウェードのバーナード・バトラーなどといった多くのギタリストにも影響を与えたことでも知られる男である。
1963年、イギリスのマンチェスターでアイルランド系移民の子として生まれた彼は、19歳にしてザ・スミスのギタリストとしてデビューを果たす。
人気絶頂期の1987年にバンドを脱退し、プリテンダーズに在籍したこともあった。
以降、ザ・ザのメンバーとなりながら、セッションミュージシャン、楽曲提供、プロデュースなど多岐にわたって活躍の場を広げてゆく。
そんなイギリスを代表するギタリストが、どんなきっかけで音楽と出会い、ギターを好きになったのか?彼の少年時代のエピソードをご紹介します。



1963年10月31日(ハロウィンの日)、彼はイギリスのマンチェスターで生まれた。
両親がアイルランドのキルデア州出身だったため、彼は“移民の子”として育つこととなる。
一家は彼の生後すぐにアードウィック・グリーンと呼ばれるインナーシティ(都心近接低所得地域)に引っ越す。
彼が住んでいた集合住宅は、トイレが庭の離れにあり、風呂もなく行水で済ますようなボロ屋だった。

「僕と妹は、冬になると毛布の上に両親がかぶせてくれる何枚ものコートで寒さをしのいだ。居間には小さな暖炉と白黒テレビがあったけど、なぜか家族はラジオがあった奥まった部屋に集まって過ごすことが多かった。」


近所にはインドやアイルランドなど様々な国籍の労働者階級の家族が暮らしていた。
戦時中にナチスから逃れてイギリスに流れてきたポーランド人もいたという。
熱心なカトリック教徒だった両親は、共に勤勉だった。
父親は倉庫での仕事の後に、夜間は地下にガス管を敷設する仕事もしていた。

「それが相当きつい肉体労働であろうことは、子供の僕にもわかった。朝方、全身土まみれで帰宅した父が行水している間に母は家を出て、バスで診療所の掃除婦の仕事に向かう。そんな毎日の中で僕ら兄妹は育った。」


ある日、彼は忘れられない音楽体験をしたという。
彼の母親は音楽が好きだった。
ラジオが置いてあるいつもの部屋でおもちゃで遊んでいたら、母親と叔母がそわそわした様子で帰宅し、食器棚にレコードプレイヤーをセットした。
そして母親が45回転のレコードをターンテーブルの上に乗せて、ニッコリと笑いながら針を落とした。
スピーカーから流れ出した音楽は、エヴァリー・ブラザーズの「Walk Right Back」という曲だった。
レコードが何度も繰り返して回される間、彼はそのシンプルなギターサウンドに心を惹かれていったという。


「あの時、僕が何よりも惹かれたのはギターフックだった。それ以来、どんな曲を聴いても、僕の耳は自然とギターフックを探すようになったんだ。あの日から家では常に音楽が流れるようになった。シンガーやバンドものに夢中だった母は、しょっちゅうレコードを買っていたよ。」


また、一家は同じマンチェスターに住む彼の祖母に家に親戚と集まって、よくパーティーを開いていた。
祖母の家には、集まった親戚や友人が弾くための楽器が置いてあった。
親戚の誰もが、彼が音楽(ギター)に興味を持ち始めたことを知っていて、音楽の話や様々なことを教えてくれたという。

「みんな僕を子供扱いせずに、一人前の男として話してくれたんだ。タバコを吸い、酒を呑み、身内の間ではどんな話もタブーではなかった。言葉遣いをたしなめられることもなかったよ。」


パーティーには楽器と歌はつきもの。
時間と共に騒々しさは増し、次々とボトルが空になっていく。
大人たちの演奏が始まると、彼は床に座って様子を観察した。

「アイルランドから来た若い世代と一緒に過ごせたことで良かったのは、僕の両親がいわゆる伝統音楽やレベルソング(英国統治に対するプロテストソング)は、自分達の世代の音楽ではないと思っていたからだ。彼らが好んで歌っていたのは、ポップスやロックンロール、そしてカントリーミュージックだった。それらの音楽の印象的なギターリフを真似ようとして、僕はいつも耳を澄ましていた。ギターを意識すればするほど、その魅力にハマってるいくようで“僕もいつかこんな音楽を僕も作りたい!”と本気で思っていたよ。」


<引用元・参考文献『ジョニー・マー自伝 ザ・スミスとギターと僕の音楽』ジョニー・マー(著)丸山京子(翻訳)/シンコーミュージック>

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