エレクトリックピアノのジェントルな音色に導かれ耳を傾ければ、蠢くようなベースラインとワウギターのカッティングが妖しげなムードに誘う。時が進むようにクールにキープされたリズムに覆いかぶさる、美しくもおだやかな弦楽器の音色はどこか嵐の前の静けさを想起させる。そこに! 虚を衝くようにカットインしてくるゴージャスなブラスセクションとドラムのフィルインがガラリと空気を変え、高揚感が高まったところに、物語の幕開けを告げる流麗なストリングスが響き渡る──冒頭の30秒弱の短い時間で、まるで優れた映画音楽のように聴き手の心を鮮やかに奪っていく。そんな音楽を作るのが、まだ20代前半の若き才能だと思い返すたび、驚嘆を禁じ得ない。
北園みなみは、1990年生まれのシンガー・ソングライター。性別すらも曖昧に感じるその名前は、大正末期から昭和初期に活躍した詩人の北園克衛から取ったという(ちなみに下の名は、単に「南北」で「みなみ」とつけたそう)。現在も松本市に在住する彼は、小中学生の頃からキーボードやベースの演奏をはじめ、その後専門学校在学中にコントラバスを習い、ジャズ・ミュージシャンとしても活動していた期間があるという。並行して、小学生の頃から多重録音による宅録を行っていたという北園だが、2012年にSoundCloudにアップした音源が高いクオリティからネット上で評判となり、一躍注目を集める存在となった。
ここ数年で話題を集める〈ボカロP〉のように、DTMで作った音源をネット上で発表するというケースは多いが、北園みなみの場合は作編曲はもとより、ギター、ベース、コントラバス、サックスなどもこなすプレイヤーでもあることも、その作風に大きな影響を与えているようだ。生楽器とデジタルなサウンドを同等に扱い、ごく自然に溶け込ませる。ジャズ、フュージョン、ファンクを基にさまざまなエッセンスを自由に取り入れ、ポップな聴後感にトリートメントしていく。
北園みなみ名義での初のリリースとなる本作は、5曲入りの掌編集。これまでに発表してきた宅録音源ではほとんどの楽器を一人で演奏していたそうだが、本作ではギター、ベース、キーボードを北園自身が担当、ドラムに坂田学、ブラスセクションにEGO-WRAPPIN’などで活躍する武嶋聡チームなどが参加。また、北園の才能に逸早く注目し、最新アルバム『ゆめ』では数曲のアレンジを彼に依頼したLampのメンバーもコーラスとして参加している。SoundCloudにて発表した「ざくろ」も新たなアレンジを施して収録されている。
シティポップやAORのような耳当たりのよい音楽性は、はっぴいえんど界隈からキリンジまで続く系譜に置いてみたくもなるが、本人はそのあたりの音楽をほとんど通過していないというのも面白い。むしろそういった日本のミュージシャンたちが影響を受けたり、ルーツにしていた音楽を自ら遡って、吸収し咀嚼して再構築したら、現在のリアルな空気をまとった新たなシティポップが誕生した、といったところか。ある世代には懐かしく聴こえ、しかし、ある世代にはとても斬新なものに聴こえる。そしてすべてのリスナーを、やけにリアルで、だけどドリーミーな音世界へと誘ってくれることだろう。
北園みなみ official website
http://www.kitasonominami.com/
北園みなみ『promenade』digest
北園みなみ SoundCloud *過去に発表した音源