デューイ・バネル、ジェリー・ベックリー、ダン・ピークの3人からなるアメリカが「名前のない馬」をヒットさせたのは1971年のことである。ラジオから流れる爽やかなハーモニーは、CS&Nを思わせたし、その曲はニール・ヤングのそれのように響いた。だが、歌っていたのは、アメリカという名前の3人組で、彼らの「名前のない馬」はニール・ヤングの「ハート・オブ・ゴールド」にとってかわって、チャートのトップに輝いたのである。
それにしても、よく「アメリカ」というバンド名をつけたものである。
シカゴ、ボストンといった都市名を冠したバンドはあるし、英国のバンドが「ジャパン」と名乗ったことはあるが、何故、彼らは「アメリカ」となったのだろう。
おそらくその理由のひとつは、彼らがバンドを結成した時の状況だろう。彼らが出会ったのは、イギリスにあるアメリカン・スクールだった。そう、彼らは英国に駐在するアメリカ人兵士の子供たちだったのである。
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その旅の第一章
僕はそこでの生活に
見とれたのさ
植物に鳥たちに岩
砂漠や丘だった…
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リード・ボーカルのデューイがこの歌を書いたのは19歳の時だが、最初この歌は「デザート・ソング(砂漠の歌)」と呼ばれていた。
デューイの父親がカリフォルニア州サンタ・バーバラの空軍基地に勤務していた頃の記憶がベースになっている。
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砂漠を突っ切っていくんだ
名前のない馬に乗ってね
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一部の人々たちの間では、砂漠=デザートは、ヘロインの隠語だった。だが、デューイにとって砂漠を中心とした自然は、アメリカの象徴だった。子供の頃、初めて目の当たりにした壮大なアメリカそのものだったのである。
そして、歌詞はこう続く。
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雨が降らないというのは
気分がいいものさ
砂漠では
君は自分の名前を憶えていられるんだ
そこでは誰も君を傷つけたりしないからね
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One,Two,Three,Four
I love a rainfall
(1、2、3、4
雨降りは大好きだ)
というのは英国兵士が行進する時の掛け声だが、とにかくイギリスは雨が多い。家の事情とはいえ、異国のアメリカン・スクールでの暮らしは、ストレスも多かったのだろう。
今日も世界各地でアメリカ兵とその家族は暮らしている。
彼らが1日も早く、故郷に帰れることを祈っている。