『スター誕生』(A Star Is Born/1976)
「ロックスター」という生き様からは、様々なイメージを思い浮かべることができる。セックス、ドラッグ、アルコール、派手なファッション、長髪、田舎の大豪邸、高級車、専用ジェット、ホテル暮らし、プールサイドパーティ、モデルの女たち、グルーピー、スキャンダル、トラブル、海外逃亡、警察との衝突、逮捕劇、裁判沙汰……。
これらはあのキース・リチャーズが60年代後半から70年代を通じて作り上げた世界と言ってもいい。事実、レコード産業が好況に沸いた1970年代後半のアメリカでは多くのロックスターたちがそのイメージを実践していた。
人気があるうちはいい。だが落ち目になった途端、イメージの世界から抜け出せない気まぐれなままのロックスターはどうしようもない駄目人間になっていく。『スター誕生』(A Star Is Born/1976)は、70年代型ロックスターの人生最終章とスターダムの序章を迎えたばかりの女性歌手、二人の愛と別れを描いた傑作だった。
ジュディ・ガーランドで有名な『スタア誕生』の3度目のリメイク作で、それまでの映画界からロック界へと舞台を変えた初めての作品。主演はカントリー・ミュージシャンや俳優として人気の絶頂にあったクリス・クリストファーソンと、同じく歌手や女優としてスーパースターのキャリアを築いていたバーブラ・ストライサンド。
バーブラやクリスが歌う映画のサウンドトラックは全米1位に。ポール・ウィリアムス、レオン・ラッセル、ケニー・ロギンス、ルパート・ホルムズらがソングライティングに協力。収録された「Evergreen」は大ヒットした。
物語は長い人気を誇るロックスター、ジョン・ノーマン・ハワード(クリス)のツアーから始まる。しかし、トラブル続きの言動でブレーンたちはうんざり気味。ここ数年はヒット曲にも恵まれず、売り上げや人気も下降していた。ある夜、たまたま覗いた場末のクラブでエスター・ホフマン(バーブラ)という無名歌手と出逢う。
彼女の非凡な歌声、容姿に一目惚れしたジョンは、次の日のスタジアムコンサートへエスターを同行させる。ステージにバイクに乗って現れて転落するジョン。怪我で病院送りとなったジョンを遠目に、エスターは一人残されたまま虚しさを味わう。
ツアーもキャンセルとなり、訴訟や税金などの面倒に巻き込まれていくジョンは、エスターと思わぬ場所で再会。二人は燃えるように愛し合う。穏やかな日々もあって人間らしさを取り戻したジョンは、エスターとレコードを吹き込む。あるコンサートでは突然エスターを観衆に紹介。ためらっていたエスターだったが、歌い終えると大歓声。こうして彼女は一夜にしてスターとなった。
二人の結婚生活も始まった。束の間の夢のようなハネムーンを経て、スター街道を上っていくエスター。一方、落ち目のジョンはブレーンたちに煙たがられて再びアルコールに溺れていく。二人の立場はすっかり逆転してしまった。
やがて二人の関係にも溝が生じるが、どんなに駄目なジョンでも受け入れる決意をしたエスターは、もう一度愛の力で繋がろうする。ジョンも心の底から彼女を愛していた。眠りにつくエスターにそっとキスをしたジョンは、車に乗り込むと猛スピードで荒野を駆け抜けていく。そして、死という悲しみの中でステージに立つエスター。歌声は次第に力強く舞い上がっていく……。
映画のハイライトは、ジョンがステージでバイクを乗り回すスタジアムのコンサートだろう。フェニックスにあるアリゾナ州立大学のスタジアムで10時間に渡って撮影。わざわざこのシーンのためだけに、ドゥービー・ブラザーズやサンタナらが出演するスペシャルコンサートを開いたというから驚きだ。しかも3ドル75セントの低料金だった。結果、6万人もの大観衆が集まった。
余談だが、クリストファーソンの役は当初、あのエルヴィス・プレスリーが演じる予定だった。人気が落ち目だったエルヴィスはこの映画に大きな意欲と自身の復活を想い描いたものの、悪い噂が絶えなかったマネージャーのトム・パーカーがここでも法外な利益と契約を求めたため、話は流れてしまったという経緯がある。エルヴィスは激怒したそうだ。
今観ると『スター誕生』は、ロックスターにまだロマンがあった時代の「大人のためのお伽話」なのかもしれない。
クリス・クリストファーソン扮するロックスターのジョン
ジョンとの出逢いでスターとなっていくバーブラ・ストライサンド扮するエスター
予告編
レディー・ガガ主演のリメイク版『アリー/スター誕生』が、2018年12月21日に日本公開された。
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*日本公開時チラシ
*参考/『スター誕生』パンフレット
*このコラムは2017年8月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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