出来の悪い子ほど可愛い、という親がいる。
クリス・クリストファーソンは、けっして出来のいい男ではない。
「クリスが酔っ払ってない時なんて、見たことないよ」
彼の友人は口々に言う。
だが、アメリカのポップチャートで、最後にゴスペル・ソングが1位になったのは1973年のことで、その曲「ホワイ・ミー(・ロード)」は、クリス・クリストファーソンの曲なのである。
何故、主よ、この私に?
これまで私の為してきたことは何であれ
与えられし祝福のひとつにでも値したでしょうか
何故、主よ、この私に?
あなたから受ける愛、そして優しさに値するような何かを
この私にできるというのでしょうか
主よ、私をお救いください、荒んでいるのです
お助けください、イエスよ、私の魂はあなたの手の中にあるのです
神はアル中の男を愛したのだろう。「ホワイ・ミー」はチャートのナンバーワンに輝いただけでなく、エルヴィス・プレスリーをはじめとする多くのシンガーに歌われることとなる。
それにしても、クリストファーソンは不思議な男である。
英国オックスフォード大学に留学したかと思えば、アメリカに戻ってきてスタジオの清掃員になって、歌手デビューの可能性を探ったりもする。
デビューのきっかけは、彼がジョニー・キャッシュに手渡したデモテープだったのである。(TAP the STORY「クリス・クリストファーソン〜空からの“売り込み”」)
そう、神がクリストファーソンを愛したように、敬虔なクリスチャンでもあったジョニー・キャッシュもクリストファーソンを愛した。
2009年の話。
ニューヨークの倉庫で、1本の録音テープが見つかった。それはジョニー・キャッシュとレイ・チャールズがデュエットする「ホワイ・ミー」だった。
発見者は、レイ・チャールズ財団のスタッフ。彼らは、音源だけでなく、ジョニー・キャッシュがレイ・チャールズに充てた手紙も見つけ出している。
ジョニー・キャッシュは1981年12月11日付けの手紙で、こう書いている。
「君とひとつの曲を録音したと、みんなに話すことができるのは大変に光栄なことだ。君がこのテープを気に入ってくれればと思う。(中略)もしよければ、君の許諾次第では、この曲をシングルとしてリリースしたいと思っている。印税は半々ということでどうだろうか」
キャッシュが録音したトラックに、レイ・チャールズがハーモニーを加える、という形で、この曲は完成した。ジョニー・キャッシュとレイ・チャールズは、キャッシュのテレビショー時代からの仲である。
発見された曲は、翌2010年に「Rare Genius : The Undiscovered Masters」というタイトルのアルバムのフィナーレを飾る曲として発売された。
*このコラムは2014年10月に公開されました。
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