クリス・クリストファーソンとジョニー・キャッシュ
ある日、自宅で昼寝をしていると、ジューンが叫んだ。『ヘリコプターが庭におりてくるわ!』 外に出ると、クリスがヘリコプターから出て来て僕に言ったんだ。『どうしてもこの曲を渡したかった』って。
1965年のある日、突如として空軍の任務と結婚生活を放り出したクリス・クリストファーソンは、そのままテネシー州ナッシュビルに移り住み、コロンビアスタジオの守衛や清掃(ボブ・ディランの灰皿を片付けた!)、沖合までヘリコプターを飛ばす仕事などで生活費を稼ぎながら、自分のバンドを結成する。
「何度もジョニー・キャッシュに売り込んだよ。そのうちスタジオの関係者から『売り込んでも無駄だ。ジョニーの邪魔をしたらクビにするぞ』って言われてね」
それでも今度はキャッシュの妻ジューンにテープを渡すようになり、それは山のようになった。チャーターしたヘリコプターを使ったという、伝説的な冒頭のエピソードはこの頃の出来事だ。その時はソングライターとしての経験を積むように励まされただけだった。
しかし1970年、その売り込んだ曲が『ジョニー・キャッシュ・ショー』(*1)という大舞台で全米に届けられることになる。だが歌詞にドラッグを連想させる部分があるとして、テレビで歌うことを局側に問題視され、ソングライターにとっては屈辱的とも言える代案の歌詞が用意された。
クリストファーソンは、収録場所であるライマン公会堂の二階席から心配そうにステージを見守る羽目になった。そしてキャッシュはヘリコプターの時と同様、今度は二階席にいる“売り込み男”を見上げることになった。
日曜の歩道 “ストーン(*2)”なままだったら良かったのに
日曜のこの雰囲気 たまらなく寂しくなってしまう
死んでしまうなんて この半分の切なさでしかないよ
覚めやらぬ歩道 虚ろな日曜がやって来た
「ジョニーは僕を見上げながら、元通りの歌詞を歌ったんだ! 彼はこの歌を救った。変えていたら違う歌になっていた。彼は恩人だよ」
この曲「Sunday Morning Coming Down」は、キャッシュのバージョンでカントリーチャートの1位を記録し、CMA(カントリーミュージック協会)の最優秀歌曲賞を受賞。
また、同年にリリースされたクリストファーソンのデビューアルバムにも収録され、彼はロックやフォークを取り入れた斬新な音楽性と小説描写にも似た歌詞で、長髪と顎髭を生やしたナッシュビルのアウトローとして、カントリー界のサクセスストーリーを掴んだ。
*1 ジョニー・キャッシュ・ショー
詳しくはこちら。
“本物”を伝え続けた奇跡のTVショー
ジョニー・キャッシュ~老いても、それでも歌い続けるということ
すべてはこの男から始まった~ジョニー・キャッシュ特集
*2 ストーン
土曜の夜にドラッグで飛んでいた。つまり、昨夜のような状態だったらどんなにいいか、というニュアンス。
ジョニー・キャッシュ・ショーでの映像
後年の共演映像
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*参考・引用/『JOHNNY CASH THE ANTHOLOGY』
*このコラムは2014年5月31日に初回公開されました。
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