30年以上に渡ってジョニー・キャッシュを支え続けてきた最愛の妻、ジューン・カーター・キャッシュが亡くなったのは2003年5月15日(享年73)。
ジョニー・キャッシュ自身も自律神経失調症による闘病生活の日々だったが、ジューンが遺した「歌い続けてほしい」という言葉を受けて精力的に音楽に取り組む。
4ヶ月間で60曲以上を録音し、カーター・ファミリーによるコンサート、カーター・ファミリー・フォールドにも出演した。そして2回目の出演となった7月5日のコンサートが、ジョニー・キャッシュにとって最後のパフォーマンスとなる。
「ハイ、アイム ジョニー・キャッシュ」
車椅子で登場したキャッシュはいつもの挨拶を済ますと、この日はデビューした1955年のシングル「Folsom Prison Blues」で幕を開けた。中盤、ジューンとの思い出の曲である「Ring Of Fire」を歌う前には、本番前に書いたという文章を読み上げる。
今夜はジェーンの魂が私の心に光を照らしている
私へのジューンの愛と私のジューンへの愛とともに
私達はここと天国の間にあるどこかで繋がっている
彼女は私に勇気と創造力を与えるためにしばし天国から舞い降りてきたのだろう
彼女がいつもそうしてくれたように
この日、キャッシュが最後に歌ったのは“意外”な曲だった。
「今夜は25年間人前で歌わなかった曲を聞いてほしい。『Understand Your Man』という曲だ。」
窓から私の名前を呼ぶのはやめてくれ、私はもうじき去る
振り返るつもりさえないんだ
1964年に発表されたこの歌は、女への別れの言葉だったが、この日はところどころ歌詞が違っていた。それはまるで遺言のようにも聞き取れた。
私は何も持ってきていない 旅の重荷になるから
それは精神を解放するための旅だから
今まで私が言ってきたことを繰り返し言うつもりはない
私が息をしていようとしていまいと関係ない
私が向かうのは凍えるような冬の荒れ地のようなところだ
そのうち私という男が分かるだろう
私という男を分かってくれ
このコンサートから2ヶ月後の9月12日、ジョニー・キャッシュは妻のジューンを追いかけるようにこの世を去った。
結果として「Understand Your Man」が最後のパフォーマンスとなってしまったのだが、キャッシュはそうなることを分かっていたのだろうか。
キャッシュはきっとこう答えるのだろう。
「Understand Your Man(私という男を分かってくれ)」
Johnny Cash Last Performance (full)
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