「俺と結婚してくれ。今、返事をしてくれないとこれ以上歌えない」
1968年、カナダ・オンタリオ州でのツアー真っ最中の出来事だった。舞台上のジョニー・キャッシュは、少年時代からの憧れでもあり、今まさに共演中のジューン・カーターに突然プロポーズを始めた。多くの観衆が見つめる前で──。
アメリカン・ミュージックのカリスマが誇る数々の伝説の中でも、もっとも有名なエピソードである。
ナッシュビルで初めて出会ってから、10数年以上が経過していた。一時はドラッグに溺れて、スターの座から転落したキャッシュ。そんな窮地にあった彼を辛抱強く支えて、救い出したジューン。
この間のふたりの結びつきは、まさにソウル・メイトと呼べるものだった。
恋は甘い味がする 燃えるハートが出会う時
子供のように恋に落ちる 恋の炎が燃え上がった
僕は落ちた 燃える火の輪の中に
落ちて 落ちて 炎の壁は高くなる
燃える 燃える 燃える 熱い恋の火の輪
2005年公開の映画『ウォーク・ザ・ライン−君につづく道−』は、製作・脚本段階にキャッシュ本人が関わり、彼自身の半生とジューンとのラブストーリーが描かれた。
冒頭のプロポーズ場面も、ホアキン・フェニックスとリース・ウィザースプーンによって見事に再現されている。
ちなみに、劇中の楽曲は、音楽監修を担当したT・ボーン・バーネットの「台詞を話す声と歌声が違うとリアルな作品にならない」という理由で、すべて俳優が実際に歌った。
2003年5月、映画公開を待たずしてジューンが亡くなると、同年9月、後を追うようにしてキャッシュも亡くなった。彼は死の数週間前、友人にこう語っていたそうだ。
「天国へ行くのが待ち切れないよ。ジューンやジャック(※)に会えるから」
※ジョニー・キャッシュの兄
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