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ジョニー・キャッシュ〜“本物”を伝え続けた奇跡のTVショー

2023.09.12

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奇跡の音楽番組『ジョニー・キャッシュ・ショー』


「俺はここ以外で、やらないよ」

ジョニー・キャッシュは自身の名前がつけられたTVショーの収録会場について話し合っている時、キー局のお偉方にそう言い放った。“ここ”とは、ナッシュビルのライマン公会堂。『グランド・オール・オプリー』の本拠地であり、“カントリー・ミュージックの聖地”と言ってもいい場所だった。

当時のキャッシュは、刑務所でのライブアルバム『At Folsom Prison』の成功によってキャリアの全盛期。収録場所に拘ったのは単なるスターのわがままではなく、キャッシュのカントリー・ミュージックに対する心に、深い愛情と敬意があったからこそだろう。“ここ”でないと、やる意義がなかったのだ。

こうして1969年6月7日、『ジョニー・キャッシュ・ショー』は始まった。
ライマン公会堂は古くて狭く、全米ネットの番組を制作できるほどの十分な環境設備がなかったにも関わらず、キャッシュはもちろん、レギュラー出演者やスタッフたちの絶え間ない努力と情熱で、週に一度のショーは感動的なものへと姿を変えていく。

名場面は数えきれない。カントリーを中心にしつつも、様々なジャンルのゲストたちが集った。

TV出演とは無縁で数年間人前に出ることのなかったボブ・ディランの登場。

政治的な物議をかもしかねないフォーク・シンガー、ピート・シーガーの出演。

引退状態だったジャズのルイ・アームストロングがカントリーのジミー・ロジャースの歌を歌い、オリジナル・カーター・ファミリーのマザー・メイベルが独創的な演奏を披露した。

「カントリーゴールド」というコーナーでは、伝説的なブルーグラスの創始者ビル・モンロー、亡くなったハンク・ウィリアムスの歴史的な映像が紹介されたこともある。

「ライド・ジス・トレイン」では幻想的なナレーションとともに、アメリカの過去の壮大な音楽の旅へと導いた。

「オン・キャンパス」ではベトナム戦争に反対する学生たちと意見交換もした。

それは良質なエンターテイメントであり、カントリー入門であり、音楽的オアシスと言えた。ただ楽しませるだけでなく、人々の良心に訴えて物事について深く考えさせてくれる機会となり、同時に様々なミュージシャンの意外なつながりや影響関係が、キャッシュの番組を通じて知ることができるようになった。

キャッシュの長年曲げることのなかった音楽に対する誠実さは、ゴールデンタイムのリビングルームの視聴者には、従来の保守的なバラエティショーと違って、極めて個性的な存在として映ったかもしれない。

だが、もしキャッシュが“本物の音楽”を伝えてくれなかったら、現在の魅力的な一部の音楽は決して聴こえてくることはなかっただろう。1971年3月31日まで続けられ、放送は58回に渡った『ジョニー・キャッシュ・ショー』の果たした役割は計り知れない。



レギュラー出演者
自身のバンド、テネシー・スリーのほか、妻のジューン・カーター・キャッシュ、カーター・ファミリー、スタットラー・ブラザーズ、カール・パーキンスなど。

リビングルームの視聴者
まだ幼かったリック・ルービンもこの番組を観ていたという。20数年後の出来事への序章だった。


収録されている主なゲスト/ボブ・ディラン、クリス・クリストファーソン、ルイ・アームストロング、スティーヴィー・ワンダー、CCR、リンダ・ロンシュタット、ジョージ・ジョーンズ、ウェイロン・ジェニングス、タミー・ウィネット、ジェームス・テイラー、ピート・シーガー、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、デレク&ザ・ドミノス、ビル・モンロー、ロレッタ・リン、ジェリー・リー・ルイス、エヴァリー・ブラザーズ、レイ・チャールズ、ロイ・オービソン、チェット・アトキンス、マール・ハガード、ハンク・ウィリアムス、ハンク・ウィリアムスJr.ほか



*このコラムは2014年4月に公開されたものを更新しました。

【執筆者の紹介】
■中野充浩のプロフィール
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