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グリーンブック〜黒人天才ピアニストとイタリア系用心棒が“南部”を旅するロードムービー

2023.11.13

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『グリーンブック』(Green Book/2018)


第91回アカデミー賞の授賞式(2019年2月下旬)。作品賞に輝いたのは『グリーンブック』(Green Book/2018)だった。同部門で有力視されていたスパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』や黒人ヒーローを描く『ブラックパンサー』を抑えての受賞に一部批判があったようだが、本作は人種差別問題を描きつつ、あくまでも“人間の尊厳”を描こうとした点が支持された。

と書くと、何だか難しい作品に思えるが、ストーリーは至ってシンプル。観ているうちに心がジワジワと温まってくる実話だ。実在した黒人ピアニスト、ドン・シャーリーとイタリア系の用心棒トニー・バレロンガが、キング牧師が先導した公民権運動真っ盛りの1962年、自分たちのいるニューヨークからディープサウスと呼ばれる人種差別が激しい南部へコンサートツアーを巡るというもの。

1930年生まれのトニー・バレロンガは、トニー・リップという名で親しまれた下町ブロンクス出身のイタリア系。『グッドフェローズ』などマフィア映画を中心に俳優としても活躍した人。

60年代前半にNYの一流ナイトクラブ「コパカバーナ」で最強の用心棒として働いていた頃、店が改装のため閉店。失業で職を探しているところに、ドン・シャーリーの仕事が舞い込んだ。裕福ではないが、妻や息子たちなどファミリーの結束を大切にするバレロンガ。しかし言葉遣いが荒く、黒人に対する偏見が拭い切れない。

一方、1927年生まれのドン・シャーリーはジャマイカ系。わずか9歳でレニングラード音楽院に学び、クラシック音楽の英才教育を受けてきた。「神の域の技巧」と絶賛され、18歳でボストン・ポップス・オーケストラをバックにピアニストとしてコンサートデビュー。1955年には『Tonal Expressions』でレコードデビューも果たし、ビルボードチャートで14位を記録。

多言語を話し、音楽や心理学の博士号を持つシャーリーは知性と教養に溢れていた。カーネギー・ホールの上にある高級アパートに執事を雇って独り暮らし。ケネディ大統領からホワイトハウスに招かれて演奏するほど北部の都会ではVIP扱い。

だが、黒人であるという理由だけで「クラシックの世界で芸術家として名声を得ることは困難」な状況に直面し、ジャズやポピュラーを取り入れたピアノ・チェロ・ベースのトリオ編成で「エンターテイナー」路線をレコード会社から強いられている。ちなみにリトル・リチャードやアレサ・フランクリンを知らない。

こんな真逆の境遇で癖の強い二人には、当然衝突が絶えない。しかも見たこともないディープサウスへ一緒に入っていくのだから、悪徳警官や差別主義者とのトラブルも続出。これがきっかけでお互いを理解し、次第に固い信頼と友情で結ばれていくバレロンガとシャーリー。

最後のステージは悪名高い歴史を持つアラバマ州のレストラン。案の定、屈辱に見舞われるシャーリー。その時、バレロンガが取った行動とは? そしてシャーリーが人種差別が激しい南部へ敢えて乗り込んだ本当の理由とは?

この話をずっと聞かされていたバレロンガの息子ニックは、父親の生きた証とピアニストへの敬意をどうしても映画にしたくなった。「生きてるうちは勘弁してくれ」と言われていた彼は、2013年に奇しくも父親(1月・82歳没)とシャーリー(4月・86歳没)が亡くなると、脚本、製作に着手。監督はピーター・ファレリー、バレロンガ役に『ロード・オブ・ザ・リング』のヴィゴ・モーテンセン、シャーリー役に『ムーンライト』のマハーシャラ・アリが決まった。

『ジム・キャリーはMr.ダマー』や『メリーに首ったけ』といったコメディの監督で知られるファレリー・ブラザーズの兄ピーターは、これまでの世界観で培ったユーモアを少し取り入れつつも、この感動エピソードを見応えのあるロードムービーへと昇華させた。

なお、タイトルの「グリーンブック」とは黒人旅行者向けガイドのこと。ニューヨークの郵便局に勤めていた黒人のヴィクター・H・グリーンによって創刊されたこの本には、黒人が不当不快な差別、暴力、逮捕などに遭遇しないよう、店や宿などの情報をリサーチして掲載。ジム・クロウ法(黒人を差別した法律の総称)下にあった1936年から1966年まで毎年改訂発行。主に南部で重宝されたという。

余談だが、この映画を観て、北部の黒人刑事と南部の白人警官を描いた『夜の大捜査線』を思い浮かべた。


二人の南部とその足跡(パンフレットより)

今では歴史的資料となっているグリーンブック

予告編







*日本公開時チラシ

公式サイトはこちら


*参考・引用/『グリーンブック』パンフレット
*このコラムは2019年3月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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