甘い歌声の弟と渋く落ち着いた歌声の兄。厳しい冬の寒さを凌いで暖を取っているかのような、ほっとする空気感が素晴らしい。
まるでサイモン&ガーファンクルや中期キンクス、ホリーズなど60年代に存在していたフォーク・ロックのような、ノスタルジーを存分に味わえる。
二人のデュエットで紡がれるシンプルで美しいメロディーには、哀愁がたっぷり含まれています。
「Apples」
ザ・シーズンズはユベールとジュリアンのチアソン兄弟(共にギター/ヴォーカルを担当)を中心に、ベースのサミュエル、ドラムのレミーと共に2012年頃に結成された、フォーク・ロック・グループ。
出身はカナダ東部に位置するケベック州。この地はフランス領やイギリス領だった過去を持ち、公用語はフランス語。カナダの中で最もヨーロッパ圏の文化を多く吸収した地方です。
音楽文化も盛んであり、レナード・コーエンやセリーヌ・ディオン、ケイト&アンナ・マクギャリグルなどを輩出しています。
2013年にEP「VELVET」でデビュー、2014年に初めてのアルバム「PULP」を発表しています。
作詞作曲は全てチアソン兄弟が担当。彼らはサイモン&ガーファンクルをヒーローとして崇めており、上記したミュージシャン、グループの他、エヴァリー・ブラザーズやビーチ・ボーイズ、デヴィッド・ボウイ、ピンク・フロイド、ビートルズなど多くの60年代音楽から影響を受けています。
鮮やかに入り乱れる異なる魅力を持つ二人のヴォーカル、柔らかい音色のギター、そしてアップテンポでの素朴で叩きつけるようなビート。
アルバム『PULP』には、最初に紹介した穏やかなフォーク・ソング「Apples」を始め、牧歌的なサイケ・ポップ「Copernicus」、ママス&パパスのように爽やかに疾走する「Amy Downtown」、ビートリッシュなシャッフル・ナンバー「Kitsch Trick」など、素晴らしい楽曲が盛りだくさんです。
また彼らはスマートなルックスをしており、地元ではアイドル的な人気を集めているのもポイント。
特にユベールの童顔で中性的な顔立ちは、日本の女性ファンにもアピールするものがあるはず。
きっかけは何でもいいのです。とにかく彼らの音楽を聴いてくれさえすれば。
さて、アルバム・リリース後にはしばらく音沙汰が無かったザ・シーズンズ。そんな彼らが去年の夏に発表した新曲がこちら。
「Whatever」
アコースティック、サイケデリックな魅力を生かしつつ、よりロック・バンドらしいサウンドにシフトした曲。
しかしながらフックのあるメロディーの素晴らしさは変わらず。(アンプラグド・ヴァージョンもあり、そちらも素晴らしい出来)
チアソン兄弟の才能を再確認しつつ、新作を楽しみに待っています。
(ミュージックソムリエ 旧一呉太良)