ここ数年、アナログ・レコードの人気とともに欧米の若者の間で、にわかに日本の音楽への注目が集まっているようだ。
まずは2015年、英国のレーベルHonest John’s Recordsがアングラの女王、浅川マキのアルバムを企画し、リリースしている。
また、昨年テレビで放映されたバラエティー番組では、大貫妙子のアナログ・レコードを探しに日本にやってきたアメリカ人男性が話題になったことも記憶に新しい。
そして2017年10月に、アメリカはシアトルのリイシュー専門レーベルLight In The Attic Recordsよりリリースされたのが、1969年から1973年の日本のフォーク・ロックばかりを集めたコンピレーション・アルバム『Even A Tree Can Shed Tears : Japanese Folk & Rock 1969-1973』だ。
アナログ・レコードの2枚組というこのアルバムは、Web版ニューヨーク・タイムスでも取り上げられ、話題となった。
アルバム・ジャケットのデザインは、日本のイラストレーター北澤平祐によるもので、日本語のタイトル「木ですら涙を流すのです」は、このアルバムに収録されている西岡たかしの「満員の木」の歌詞から引用されたものだ。
アルバムはCDの形でもリリースされているが、封入されているブックレットには、これらの音楽の背景にある当時の学生運動や、アングラ、フーテン族などのサブ・カルチャー、そして主要なレーベルであるURCからエレック、ベルウッドに至るまでの丁寧な解説がされている。
また、曲の全てに、原曲が収録されているオリジナル・アルバムやシングル盤のジャケット写真とタイトルの日本語表記も添えられていて、それぞれのアーティストやその楽曲の背景に至るまでの丁寧な解説がされている。例えば、遠藤賢司の「カレーライス」の中で歌われている三島由紀夫の切腹事件についてや、赤い鳥の「竹田の子守唄」に歌われる被差別部落についてなどにも、簡単ではあるが、きちんと触れられているのだ。
したがって、この時代の日本の文化やフォーク・ロックを知るための入門書としても、充分な内容になっている。
また、特集されたニューヨーク・タイムズの記事では、彼らが影響を受けた音楽として、ボブ・ディランやバッファロー・スプリングフィールド、ザ・バンドやグレイトフル・デッド、ジョニ・ミッチェルなどをあげている。遠藤賢司や細野晴臣、大瀧詠一、鈴木慶一などがそれらの音楽をどのように解釈し、日本語の歌詞をのせてオリジナリティーを出していったか、今までの彼らのインタビューなどを通して深く掘り下げている。
ニューヨーク・タイムス(原文記事)
このようにして今、日本の音楽への興味が、ワールド・ミュージック的オリエンタリズムではなく、同時代のアメリカの音楽もそうであったように、ビートルズやボブ・ディランなどの音楽に影響を受けながら、クオリティの高い音楽を独自に生み出していたという事実が世界で注目され、当時の文化とともに興味を集めているのだ。
興味深い収録楽曲は以下のとおり。
「カレーライス」遠藤賢司
「そっと二人で」山平和彦とザ・シャーマン
「あなたから遠くへ」金延幸子
「ろくでなし」古井戸
「アーサー博士の人力ヒコーキ」加藤和彦
「夏なんです」はっぴいえんど
「満員の木」西岡たかし
「夜をくぐり抜けるまで」南正人
「こんな風に過ぎて行くのなら」浅川マキ
「水たまり」布谷文夫
「僕は一寸」細野晴臣
「蒼い夏」吉田拓郎
「竹田の子守唄」赤い鳥
「マリアンヌ」愚
「われわれは」斉藤哲夫
「過ぎし日を見つめて」ジプシーブラッド
「塀の上で」はちみつぱい
「ゼニの効用力について」加川良
「男らしいってわかるかい」ザ・ディランⅡ
アルバムリリースに先立って、レーベルからYouTubeで公式に公開されている音源、加藤和彦の「アーサー博士の人力ヒコーキ」は、公開から一年足らずで16000回を超える再生回数となっていて、注目の度合いが感じられる。
また、収録されている楽曲やアーティストは、過去にTAP the POPで取り上げられたものも多く、私たちにも馴染みが深い。
遠藤賢司の名曲カレーライス~日常の中に描かれた三島由紀夫の切腹自殺
「群青色の朝」と「鈍色の雨」という言葉で始まった日本語のロック~はちみつぱい「塀の上で」
さらに、Light In The Attic Recordsでは、「Japan Archival Series」として、今後も「Pacific Breeze : Japanese City Pop, AOR & Boogie 1975-1985」、「Kankyo Ongaku : Japanese Ambient, Enviromental & New Age Music 1980-1990」のリリースが予定されている。
どのような楽曲が選曲されるのかは、私たち日本人にとっても非常に興味深いところだ。
レアグルーヴ的発掘が、いよいよ日本の音楽へ及んできたと言っていいかもしれない。