ゴスペル・クァルテットの最上級と目されていた名門グループ、「ソウル・スターラーズ」のリード・シンガーだったサム・クックは、1957年にR&Bのソロ歌手になって独立したことでセンセーションを巻き起こした。
”聖”のゴスペルから”俗”への転向、そのことがスキャンダル視されるほど、当時は両者の間には大きな隔たりがあった。
しかし、サムは自作の「ユー・センド・ミー」を大ヒットさせて、R&Bチャートとポップチャートの両方で第1位を獲得し、広範な層からの支持を集めた。
それ以後は、洗練された音楽性とソフトな歌い方、端正で甘いマスクも味方したサムは、R&Bの枠を超えて白人にも受け入れられてポップ・シンガーの仲間入りを果たす。
サムは1958年には自分が作った楽曲を管理するために、マネージャーとともに音楽出版社を設立した。白人の経営するレコード会社や音楽出版社に権利を奪われたり、あるいは一方的に搾取されないようにするためである。
人種差別が当然とされていた1950年代から60年代にかけて、支配者たる白人と折り合いをつけながらビジネス面で自立していくのは、並大抵のことではなかった。
だが、サムはそれに挑んでいった。
ライブでのギャラや楽曲の著作権収入を投じて、1959年に起ち上げたSARレコードからは、ボビー・ウーマック、ルー・ロウルズなどの若いアーティストたちを発掘して育てていった。
1960年にメジャーのRCAに移籍してからも、サムはゴスペルのルーツを失うことなく、ポップシーンで大活躍して全米トップ40にヒット曲を次々に送り込んだ。
自分でヒット曲を作るソングライティング能力を持っていただけでなく、プロデューサー的な資質も持ちあわせていたからこそ、ブラック・ミュージック全体の発展を視野に入れることが出来たのだろう。
若い頃に世話になったソウル・スターラーズのレコードも出すなど、将来を見据えた夢に向かって着実に前進していった。
後進に与えた影響という意味で、サムは単なる人気歌手にはとどまらない、黒人音楽の新しい時代を切り開くヒーロー的な存在ともなった。
その頃にサムに憧れて、お手本にして後を追っていた一人が、オーティス・レディングである。
サムは、黒人公民権運動活動家運動の最重要人物のひとりと目されていたマルコムXと親交があり、もうひとりの同時代ヒーローだったモハメド・アリとも親しかった。
ALI アリ〜マルコム・Xやサム・クックに鼓動したモハメド・アリ
当時は社会情勢や状況の変化に関して、誰もが敏感にならざるを得ない時代だったが、サムは先駆者として歩み続けた。
人種差別についても明確な意志を持つようになっていたサムが、公民権運動を象徴する曲だったピート・シーガー「天使のハンマー」や、ボブ・ディランの「風に吹かれて」をカヴァーしてライブで歌い出すのは、1963年の後半からだ。
「風に吹かれて」のメッセージからインスピレーションを得て、「A Change Is Gonna Come(ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム)」が生まれる。
そこには6月に自宅のプールで最愛の息子を事故死によって失った悲しみや、10月に南部の巡業先でサムとバンドメンバーたちが「白人専用」モーテルにチェック・インしようとしてトラブルになり、逮捕された事件の体験が織り込まれていた。
もうダメかも知れない そう思った時もあった
だけど今は 続けることが出来るように思える
ここまで来るのには とても長い時間がかかった
だけどわかるんだ 変化の時は来ている 来るんだ
おとなしくてクリーンなイメージを守りたいレコード会社や周囲からは止められていたのだが、サムはそうしたテーマの歌を作って歌い始めたのだった。
「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は1964年3月に出たアルバム、『エイント・ザット・グッド・ニュース』のB面1曲目に収録されて世に出た。
「いつかきっと変化は訪れる」という言葉に託されたサムの歌には、人種差別のない社会が来ることを願う気持ちが込められていた。それが同胞たちから、後になって絶大な支持を得ていくことになるのである。
だが、そのことを実感する機会は、残念ながらサムに訪れることがなかった。1964年12月11日、ロスアンジェルスの安モーテルで、サムは拳銃で撃たれて不可解な死を遂げてしまう。
サムの死の直後に発売されて大ヒットしたのは、明るいダンス・ナンバーの「シェイク」だった。だが、一部のラジオ局のDJたちがB面を推したことから、「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」はB面ながらもチャート入りを果たして、広く浸透していく。
その後はオーティス・レディングやアレサ・フランクリンにカヴァーされて、「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は、今日まで歌い継がれる名曲へと成長していった。
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