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美空ひばりの「リンゴ追分」からジャズの匂いを感じたという中学生のかまやつひろし

2025.04.27

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1952年4月に民間放送のラジオ東京(現TBS)の開局を記念してオンエアされたラジオドラマ、『リンゴ園の少女』の挿入歌として作られたのが「リンゴ追分」である。

美空ひばりが観客の前で初めて「リンゴ追分」を朗々と歌いあげたのは、1952年4月28・29日の二日間、東京・銀座にある歌舞伎座公演においてのことだ。

江戸時代から女人禁制であった歌舞伎座で、女性として初めて舞台に立った美空ひばりは、このとき15歳だった。そして伝統ある劇場を埋め尽くしたファンも、10代から20代前半の若者たちが中心だった。

この公演は天才少女歌手として活躍していた美空ひばりが、デビュー時から大きな目標にしていたあこがれの舞台だった。そして「リンゴ追分」はコンサートのなかでもとくに評判が良く、公演直後の5月にレコードが発売されると、過去最高の大ヒットを記録した。


当時は中学生だったかまやつひろしが、「リンゴ追分」からジャズの匂いを感じとったということを、自伝「ムッシュ!」(文春文庫)のなかで語っている。

「ジャズとカントリー&ウェスタンばかり聴いていたから、嫌いというわけではないのだが、ぼくはいまだに邦楽が苦手である。向こうの曲なら、どんなメロディーでもハーモニーがつけられるのに、日本の音楽は、メロディーにハーモニケーションがない。ハーモニーのない音楽なんて、音楽とは思えなかった。だから、いつの間にか邦楽を受けつけない体質になってしまったようなのだ。

唯一、あの当時、ハーモニケーションが付けられるという印象を持った日本の歌が、美空ひばりさんの「リンゴ追分」だった。実際、クインシー・ジョーンズがのちにレパートリーに取り上げているし、バド・シャンクなどジャズのモダンな連中が、けっこうあの曲を演奏している。リズムも妙だ。あれは馬に揺られている感じなのだろうか。馬子唄のようなものかな」


江戸時代に歌われていた馬子唄(まごうた)は、人夫が馬を曳きながらうたっていた歌だったが、追分から口づてに各地に広まっていった。まだ日本に鉄道や自動車のなかった時代、主要な街道などの分岐点をさす言葉が追分だ。

分岐点には休憩所や宿ができて、人と人との交流と出会いが始まる。そこから異なる習慣や文化の伝達も起こり、異なる土地の歌や物語が口づてで各地に伝わっていった。それを三味線に乗せて歌ったことから追分節と呼ばれる民謡となり、それが後世にまで歌い継がれて残ったのだ。

長野県の「小諸馬子唄」、新潟県の「越後追分」、北海道の「江差追分」などがよく知られている。ただし、節まわしと歌詞は受け継がれたが、馬の歩様にあわせて唄われていたはずのリズムは、長い歳月を経るうちに失われていった。

馬子唄とは日本に伝わる昔からの労働歌、アメリカ流にいえばワークソング。 主に黒人奴隷によって歌われた労働歌を指すワークソングは、労働しているときのの動作に合わせて生まれてきたものが多い。だからリズミカルなものになり、それがジャズの素材になって広まった。

日本の民謡に受け継がれていた馬子唄が、美空ひばりという天才歌手を通じて「リンゴ追分」で成功したのは、アメリカからやってきたジャズとのミクスチャーが行われたからである。それを成し遂げたのが作曲家の米山正夫だった。

馬の歩様を感じさせるパーカッションのゆったりとしたリズムが、さりげないながらも実にいい効果を出している。日本の土着的な民謡とアメリカのジャズが結びついたこの革新的な歌は、若い人たちばかりでなく大人たちにまで、美空ひばりの支持層を広げることになった。

オールマイティのシンガーだった美空ひばりは、どんなジャンルでも歌いこなせたが、米山正夫の作品がその成長に大きく貢献した。

少女から大人になっていくもっとも大事な時期に、カントリーとのミクスチャーによる「花笠道中」、都々逸とシャッフルを組み合わせた「日和下駄」、ロカビリーを取り入れた「ロカビリー剣法」など、ユニークな米山正夫作品と出会ったおかげで、美空ひばりは歌手としての天分を遺憾なく発揮したと言える。

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