「ニューミュージック」と呼ばれる音楽が注目を集め始めたのは、1966年に日本武道館で行われたビートルズの来日公演から、数年ほどが経過した頃からだった。
音楽関係のメディアやプロモーターの間で使われ始めたその言葉には、サウンド面とともにテーマや歌詞の面からも、それまでにない日本の新しい歌と音楽という意味が含まれていた。
最初にこれを自社の宣伝に使ったのはレコード会社のCBSソニーで、吉田拓郎のバックバンドとして活動したフォーク・グループ「猫」の広告だ。
彼らがCBSソニーに移籍して1973年に発表したアルバム『猫・あなたに』の帯には、「ニューミュージックの旗手!」というキャッチ・コピーがついていた。
当時の主流であった歌謡曲に対して、フォークソングあるいはロックというジャンルは、まだまだ異端という扱いにすぎなかった。だが、そのような既存の見方をあっさり打ち破ったのは、吉田拓郎というシンガー・ソングライターが大きくブレイクしたことである。
当時はまだその言葉が使われなかったが、吉田拓郎は「ニューミュージック」の先駆者であった。
1971年2月にリリースされた小椋佳のアルバム『彷徨』がロングセラーになり、吉田拓郎のアルバム『人間なんて』はインディーズのエレックから11月に出てヒットした。それでもまだレコード業界や芸能界からは、一時的な流行だとみなされていて、いわば格下の新興勢力という扱いだった。
しかし吉田拓郎はここでメジャーのCBSソニーに移籍し、1972年1月にシングルの「結婚しようよ」を発表してヒットさせた。それを追うように5月には井上陽水のアルバム『断絶』が出たことで、新しくて個性的なシンガー・ソングライターの歌とサウンドが、中高生たちにまで支持されるようになっていく。
社会的なメッセージ性が強いフォークソングという枠には収まらない吉田拓郎や井上陽水は、ロックやR&Bの洗礼を受けた新しい時代のシンガー・ソングライターたちだった。
吉田拓郎は「結婚しようよ」がヒットしたのに続いて、叙情的な味わいのあるシングル「旅の宿」(作詞:岡本おさみ)が、ヒットチャートの1位を獲得した。
こうして普段着を身にまとった髪の長い若者や学生たちが、自作の楽曲によって脚光を浴びる時代が到来したのである。その現象は音楽業界に驚きを持って迎えられた。
シンガー・ソングライターたちの作品が大手レコード会社も無視できないくらい、商品としての価値を持ち始めたのは1972年から73年にかけてのことだ。それらがいつしか、ニューミュージックという名前でくくられていった。
そしてニューミュージックが台頭してくる時期とシンクロして、歌謡曲の新しいアイドルとして天地真理や南沙織、浅田美代子がブレイクした。さらには公開オーディション番組『スター誕生!』から森昌子、桜田淳子、山口百恵の「花の中3トリオ」が輩出されるなど、ほとんど軌を一にして中学生のアイドルたちが脚光を浴びて輝き始めたのである。
ところで名曲ぞろいのアルバム『人間なんて』では、吉田拓郎が初めて自らプロデューサーを務めた。そして楽曲によってザ・フォーク・クルセダーズの加藤和彦と、ジャックスの木田高介、六文銭の小室等がディレクターとアレンジャーを兼ねていた。
また後に日本のニューミュージックのシーンがカタチになったとき、その中心で活躍する松任谷正隆や林立夫、小原礼などの若手ミュージシャン、無名ながらも、このレコーディングの現場に参加して頭角を現していく。
代表曲の「人間なんて」や「結婚しようよ」に混じって、アルバムの中で光っていたのが「どうしてこんなに悲しいんだろう」である。この楽曲から伝わってくる悲しみと励ましは、ポピュラーソングというものの本質を表しているものだった。
吉田拓郎は自分の思いを等身大の歌詞にして、それをみんなで共有できるように聴衆に向けて明るく唄った。自らが体験したことをそのまま、なにも飾らずにためらいなくストレートに歌にした。だから、その背伸びしてないところがフォーク・ファンの若者だけでなく、感受性の高い小中学生にまで届いたのである。
そんなことは大人向けの流行歌や歌謡曲では、これまで決して起こり得ないことだった。吉田拓郎はその後もこの歌を唄い続けて、いまでは多くのカヴァーも出てスタンダードになっている。

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▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
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畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
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