1960年代の半ばから激しく吹き荒れた学生運動によって、日本だけでなく世界の各国で高等教育のあり方が変容していった。日本では1970年の段階で、高校進学率がすでに80%にまで達していた。
そんな状況のなかで「先生」が、歌謡曲のテーマになる時代がやってきた。ヒット曲で並べれば森昌子の「せんせい」(1972年)、フィンガー5の「個人授業」(1973年)となる。
しかし、その先鞭をつけた形になったのは、その頃から関心が高まってきたフォークソングで注目を集めていた吉田拓郎の「夏休み」だった。それに続いたのがRCサクセションの「ぼくの好きな先生」(1972年)で、この動きが歌謡曲にも波及していったのだ。
1971年6月にインディーズのエレックから出た2枚目のアルバム『よしだたくろう オン・ステージ ともだち』のなかに、小学校の担任だった若い女性の先生が歌にでてくる小品の「夏休み」が収められていた。
その歌は発表された当時からファンの間で、素朴な三行詞の佳作だと評判になった。そして1972年7月にCBSソニーから発売したアルバム『元気です。』にも収録されたことで、音楽ファンに広く知られるようになっていく。
吉田拓郎は自分が体験した事実をもとにして、思ったことを素直な言葉で歌にするシンガー・ソングライターだ。この「夏休み」などもその典型といえる作品で、ここにはまったくといっていいほど、商業的な匂いが感じられない。
みずみずしい感覚を持つ若者たちの手で、それまでならば歌になるとは思えなかったようなテーマの作品が、アルバムの中の一曲として発表されるようになっていく。
プロの作詞家や作曲家が歌手を想定して、ヒットを狙って歌を書き下ろすことが普通だった時代に、こうした掌に包まれるような小品が生まれることは稀だった。また歌が生まれたとしても、それがレコードになって日の目を見ることはほとんどなかった。
ところで、吉田拓郎は2019年のツアーでも取り上げた「夏休み」について、広島の原爆投下に関連させて反戦歌であるという言説が、SNSなどで広まっていることについて歌が誕生した背景を、自らのホームページでこう述べていた。
「夏休み」という曲は反戦歌などでは
「断じて!ない!」
ただひたすらに子供だった時代の
懐かしい夏の風景を描いた絵日記なのである
実在した鹿児島時代の「姉さん先生」も
広島時代によく「トンボ獲り」で遊んだ夏も
すべてが僕を育ててくれた「夏休み」なのだ
あの「夏休み」が大人になった心の中で
今も「やさしく」生きている
この曲が自分の作った歌である事を
僕は正直に誇りに思っているのだ
(吉田拓郎 2019年8月6日掲載「ツアー・ライナーノーツ」より TAKURO YOSHIDA – 153-0051 ー吉田拓郎オフィシャルサイト )

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▼場所/横浜市開港記念会館講堂(ジャックの塔)
▼出演
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畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
奇妙礼太郎 with 近藤康平(ライブペインティング)
タブレット純(司会と歌)
佐藤利明(司会と構成)
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SS席 9,500円 (1・2階最前列)
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