「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the STORY

レスター・ヤング 27歳〜ビリー・ホリデイとの出会い、死が二人を分かつまで続いたプラトニックな関係

2025.03.14

Pocket
LINEで送る

1937年、レスター・ヤングは27歳の時にビリー・ホリデイ(21歳)と出会う。

当時在籍していた“カウント・ベイシー・オーケストラ”に、彼女もたびたび参加するようになっていたのだ。レスターは親しみを込めて、ビリーに“レディー・デイ”という愛称をつけた。

ビリーは10歳の時に強姦され、相手が白人だったために(彼女が被害者なのに)、逆に売春容疑で逮捕されるという理不尽な経験を強いられ、以来、自暴自棄になり売春や麻薬にも手を染めていた。

レスターもまた、十代の頃に父親から受けた家庭内暴力ともいえる音楽指導によって、心に深い傷を負っていた。

お互いに辛い過去を持つ者同士として意気投合し、二人は仕事仲間から飲み仲間となり、後には麻薬仲間にもなっていく。

特別な名前で呼び合うために、ビリーは彼に “プレス(Pres)”という愛称を思いつく。※プレズ(Prez)と表記される場合もある

「私はいつも、レスターを最高だと思っていたから、称号も最高でなければならないと考えていたの。当時のアメリカでは、王(King)も、伯爵(Count)も侯爵(Duke)も、あまり魅力のある呼び名じゃなかったわ。最高の男は大統領のフランクリン・ルーズベルトだった。そこで私は彼のことを“大統領(President)”と呼び出したの。それが縮まって“プレス(Pres)”になったのよ」
<ビリー・ホリデイ自伝『奇妙な果実』晶文社より>


当時のジャズメンには“キング”・オリヴァー、“カウント”・ベイシー、 “デューク”・エリントンと、王も伯爵も侯爵も存在した。ビリー・ホリディはそれを皮肉って言ったのだ。


幼少時代から父親による異常とも言える演奏指導(暴力行為)を受けて育ったレスターは、19歳で家出をする。サックスを手にいくつかのバンドを渡り歩きながら力をつけ、1932年に“オリジナル・ブルー・デヴィルズ”というバンドに参加する。

オクラホマ・シティーを中心に活動していたこのバンドには、後にジャズ界を代表するアーティスト(バンドリーダー)となるカウント・ベイシーが所属してた。

翌1933年には、カウント・ベイシーが立ち上げたバンドに所属し、当時テナープレイヤーのスターとして君臨していたコールマン・ホーキンスのアグレッシブで荒々しい奏法とは正反対の、ソフトで優しい演奏スタイルで徐々に人気を博していった。

その後、カウント・ベイシーの下から一旦離れ、当時人気絶頂だったホーキンスの後任としてフレッチャー・ヘンダーソン楽団に入ったが、レスターを待っていたのは“ホーキンスのようにプレイしなければいけない”というプレッシャーと、周囲からの厳しい批評だった。

まもなくそこを辞め、別のバンドで6ヶ月ほど演奏するが、再びベイシーと活動するために彼の楽団に戻ることを決める。1936年、カウント・ベイシーが結成したビッグバンド“カウント・ベイシー・オーケストラ”のメンバーとなったレスターは、ここでやっと初めての国際的な名声を得るようになる。

この年の夏の終りに、レスターは27歳を迎えていた。そして、その数ヶ月後にビリー・ホリデイと出会うこととなる。

心に傷を負いながらも、深い絆で結ばれていたレスター・ヤングとビリー・ホリデイ。互いを「プレス」「レディ」と呼び合い、気持ちを通わせた彼らのプラトニックな関係は、死が二人を分かつまで続いた。

1959年3月15日、ビリーはレスター・ヤング(享年49)の訃報を耳にする。その頃にはビリーも身体が弱り切っていたのだが、他ならぬ友の旅立ちに“別れの歌”を贈ろうと思い立ち、無理を押し切って参列した。

埋葬のときに、レスターの妻からビリーは歌うことを拒絶される。深い悲しみに彼女は泣き崩れ、葬儀からの帰り道にこう呟いたという。

「あいつら、唄わせてくれなかった。この次はあたしの番だわ」


その年の7月17日、まるでレスターの後を追うように、ビリー・ホリデイ(享年44)もこの世を去った。


ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング『A Musical Romance』

ビリー・ホリデイ&レスター・ヤング『A Musical Romance』

(2002/Sony Music)


●Amazon Music Unlimitedへの登録はこちらから
●AmazonPrimeVideoチャンネルへの登録はこちらから

★大切なお知らせ★


【ご支援ご協力のお願い】

「音楽が秘めた力を、もっと多くの人々に広めたい」
「音楽が持つ繋がりや物語を、次の世代に伝えたい」
音楽コラムサイト『TAP the POP』は、今後の活動に向けてクラウドファンディングを実施中です。



“ここでしか手に入らない”グッズや書籍のリターンをご用意しました。

この機会にぜひ❝音楽愛❞を一緒に育ててくれませんか。応援よろしくお願いいたします(下記の「音楽愛」ページで経緯や想いを綴りました)。

~リターンメニューのご紹介~
♪Tシャツ、パーカー、キャップなど7種の限定デザイン&ロゴ入りグッズ
♪約4,000本の原稿から厳選するベスト盤的書籍
♪ご支援いただいた全員の方を「音楽愛メンバーの証」として特設ページで名前入れ

▼ TAP the POPクラファン「音楽愛」ページ(CAMPFIRE内)
https://camp-fire.jp/projects/view/811070

●CAMPFIREでアカウントを作成してから(簡単にできます)、TAP the POPのクラファンページに「お気に入り登録」をよろしくお願いします。最新情報がいち早く届くのでオススメです。
●「音楽愛」に共感してくれそうなお友達やお仲間がいたら、TAP the POPのクラファンページをシェア・拡散してください。よろしくお願いいたします。

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the STORY]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ