1959年9月12日、当時26歳だったニーナ・シモンは、ニューヨークのTown Hallで初のホールコンサートを成功させる。それまでクラブでの活動が中心だった彼女にとって、このステージは大きな転機となった。
「その日、私は舞台袖から満席になった客席を見渡した。観客はきちんと並んで席に付き、飲み物のグラスを手にした人など一人もいなかった。煙草売りの女の子がステージの前を横切ることもない。これまでやってきたクラブでの仕事は、すべてこの日のためのリハーサルだった。何年もかけて経験を重ね、確固とした自信が持てる演奏テクニックとステージでの振る舞い方は身につけていたわ」
当時、ニーナが所属していたコルピックスレーベルは、その日のステージをライブアルバム『Nina Simone at Town Hall』として発売した。このコンサートによって絶賛され、一大センセーションを起こしたのだ。
「まるで映画のストーリーのように、私は一夜にしてスターになった」
翌1960年2月、27歳を迎えた。あのTown Hallでのコンサートから約5ヶ月間、様々なマスコミが彼女を取り上げ、街を歩けば声をかけられ、アメリカ中からコンサートの依頼が殺到した。ニーナ・シモンがそれまで作ってきたレコードはヨーロッパでも発売された。
「確かにあの夜の客席の反応はいつもと違っていたわ。何年もステージの仕事をしてきたけれど、あんな大喝采は初めてだった」
伝説となったTown Hallでのコンサート以降、音楽評論家たちはニーナの音楽がどのジャンルに属するのか議論し始めた。クラシックピアノの技術を用いてポピュラーを演奏し、そこにナイトクラブでの経験で得たジャズのテイストを織り交ぜていた独自の音楽。さらに黒人霊歌や、当時頭角をあらわしていたフォーク・ミュージックも歌っていたのだから…議論は尽きなかった。
結局、ニーナ・シモンは“ジャズのようなものを歌う歌手”として分類されることとなった。
「私にとってジャズとは生き方だった。あるいは歩き方、話し方、考え方、行動のとり方、アメリカの黒人がする全てのことを意味するものだった。その点では私をジャズシンガーと呼んでも問題なかったけど、他のあらゆる点で私はジャズ・ミュージシャンではなかった」
身辺は劇的に変化していった。頻繁にツアーに出るようになり、新しいアルバムの準備に加えて様々なプロジェクトに追いかけられるようになった。そうこうしているうちに、手元にそれまでリリースしたアルバムの印税の小切手が届き始めた。
「私は突然お金持ちになったわ。小切手を受け取って最初にしたことは、母への送金と103丁目に面した建物の12階の部屋に引っ越すことだった。部屋が7つもあって、住み込みのメイドがいて、広いバスルームとウォークインクローゼットが付いていた。それからベンツのショールームに行って、真っ赤な革張りのシートがついた銀色のメルセデスのオープンカーを買った」
人生は一気に花開き、公演ギャラも含む収入も増え続け、有名人として誰からも敬意のこもった扱いを受けるようになった。コンサートの楽屋には人が溢れ、綺麗な花束をもらい、ハンサムな男性たちから「愛している」と言われたという。
この時期、元警官で後のマネージャーとなるアンドリュー・ストラウドと出会い、入籍をする。それはニーナにとって二度目の結婚だった。映画スターが顔を出すような華やかなパーティーにも顔を出すようになったが、当時一つだけ心に決めていたことがあった。
「ミュージシャンとして私は二度と安酒場で演奏しないでいいようなところまで登り詰めよう! つまり、ホールで一回コンサートを開くだけで、クラブで二週間連日演奏するより多くの収入が得られる地位を築くこと」
アメリカ南部の貧しい黒人家庭のもとに生まれたニーナにとって、この時の成功は人生最大の転機だったのかもしれない。彼女はその後、公民権運動に積極的に参加するようになり、メッセージ色の強い作品を数多く残すこととなる。
<引用元・参考文献『ニーナ・シモン自伝―ひとりぼっちの闘い』ニーナ・シモン(著)ステファン・クリアリー(著)鈴木玲子(翻訳)/ 日本テレビ放送網>
Nina Simone at Town Hall
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