「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

Extra便

時を超えて、時を駆け上がって、希望を伝える映画『君の名は。』と主題歌「前前前世」

2016.10.06

Pocket
LINEで送る

アニメーション映画『秒速5センチメートル』(監督・制作 新海誠)の主題歌として起用されたのを機に、山崎まさよしの「One more time, One more chance」が世界のアニメ・ファンに発見されてから10年が経とうとしている。

そして新海誠監督の『君の名は。』が社会現象となるほどの大ヒットを記録しているが、その音楽もまた日本映画に新しいページを開いたのではないか。

音楽を担当したRADWIMPSのヴォーカル入りの楽曲が、映画ではオープニングから挿入歌、エンディングへと全部で4曲が主題歌として使われている。
そのほかにインストゥルメンタルが22曲、映画館で実際に聴こえてきたそれらの音楽には、いつまでも印象にのこる瑞々しさがある。

とりわけピアノの音色と響き、ストリングスから受けた感触は、どちらかというと押しつけがましくなりがちな映画音楽にあって、明らかに何かが違っていると感じさせるものだった。

そして主題歌のひとつ、「前前前世」はスピード感と躍動感に満ちている。
RADWIMPS の野田洋次郎は当初、自分でピアノを弾いた曲以外に作る劇伴用の曲は、ピアニストに弾いてもらうことも考えていたらしい。

だが、そうなると自分で弾いたピアノと、ピアニストが弾いたもの、ふたつの音色が画面から流れることになってしまう。
それによって物語の統一感がズレるような気がしたので、ひとりで弾き切ることにしたのだという。

こうしたエピソードからもわかるのは、全編を通して貫かれている音楽家たちの純潔な心、映像作品への思いやりである。

RADWIMPS はこの音楽を制作するのに、1年半の時間をかけて新海監督と並走してきた。

物語でつながった映像と音楽はお互いに良さを引き立てている。
そこにはいつもの RADWIMPS ならではの音楽へ向き合うまっすぐな潔さがあり、さらに新海誠という表現者へのリスペクトがあった。

映像と音楽の幸福な出会いについて、新海監督は最初に出来上がってきた楽曲を聴いた印象をこう語っている。

『なんてものができてしまったんだ!』と思いました。
まだ制作途中の『スパークル(movie ver.)』と『前前前世(movie ver.)』が入っていたんですが、ドキドキしながら聴き始めたら座ってはとても聴けない。
たまらず外に出て、歩きながら聴いたんですよ。
そうしたら雨が降ってきて、そのまま走りながら聴いて…泣きそうだったというか、ほとんど涙が流れていましたね。
すごい体験でした。





新海監督の3年ぶりのオリジナルアニメとなる『君の名は。』は、心と体がときおり入れ替わってしまうことになった少年と少女の物語。
かつて『秒速5センチメートル』で使われた山崎まさよしの楽曲「One more time, One more chance」にも託されていた、”一生忘れられない もう会えない人”というモチーフ、揺るぎない作家性はこれまでとまったく変わらない。

しかし誰もが楽しめる作品に挑んでエンターテイメント性を打ち出したことで、テーマが明快になった分だけ、未来へ続く道がくっきりと見えてきたのだろう。

映画のための楽曲、楽曲のための映画、それが絶妙のマッチングで結びついている。

時を超えて、時を駆け上がって、RADWIMPSは『君の名は。』を通して音楽と歌で希望を伝えてくれる。

『君の名は。』は世界中で公開が待たれているが、世界が日本のRADWIMPS を発見するきっかけになるに違いない。


〈注〉本コラムは2016年9月2日に公開されたものに加筆して改題したものです。

RADWIMPS『君の名は。』
Universal Music

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[Extra便]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ