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山川啓介が太陽に託したメッセージ「悲しみの夜がつづいても  君は負けずに朝を待て」

2017.08.18

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長野県の出身だった作詞家の山川啓介の本名は井出隆夫、早稲田大学第一文学部に在学中からミュージカルの制作などに携わり、卒業後は作曲家のいずみたくのもとでレコードやCMの作詞、ミュージカルの訳詞や脚本を書いてキャリアをスタートさせている。

学生時代に作詞を志した背景には日本の音楽シーンに新風を吹き込んだ二人の作詞家、永六輔と岩谷時子の存在が大きかったと述べている。
それは歌詞の作り方だけでなく、作詞家としてのあり方にも影響を及ぼしていた。

それまでの七五調のような文語ではなく、話し言葉でも人の心を打つ詞が書けることがわかって、自分もそういう詞を書いてみたいと思うようになりました。当時、ほとんどの作詞家や作曲家はレコード会社の専属でしたが、永さんや岩谷さんはフリーで書いていらした。そのことも魅力に感じました。


いずみたくに抜擢されて書いた「太陽がくれた季節」がヒットチャート1位になる大ヒットを記録したのは、1972年のことである。


いずみたくが自伝的エッセイ集のなかでそのあたりの事情を、歌った新人グループの青い三角定規とからめて明らかにしている。

その頃ボクは、TVドラマ、TV映画の仕事に追われる毎日で、数多くの主題歌を作曲する機会に恵まれていた。ある青春物のTV映画の主題歌の歌手として、思い切って彼らを起用してみた。そして彼らと同じように、内容も、新鮮な”青さ”を感じさせる詩が欲しかったので、新人の作詞家を起用した。
まだお尻の青そうな(?)彼が作詩したその曲が、お尻の青いグループが歌って大ヒットしてしまった。


これで作詞家として名前が広く知れ渡った山川は、その直後に中村雅俊の「ふれあい」もヒットして注目を浴びた。
その後は矢沢永吉の「時間よ止まれ」や、岩崎宏美の「聖母(マドンナ)たちのララバイ」、ゴダイゴの「銀河鉄道999」など、多彩なヒット曲を生み出していった。

しかし山川はそれらの歌謡曲とは異なるタイプの作品も数多く手がけて、たくさんの子供たちや少年たちに夢と希望を与えてきた。

きっかけとなったのは1979年から放送された東映制作の特撮ドラマ『バトルフィーバーJ』で、そこから約15年もの間に、数多くの東映特撮ヒーローの主題歌と挿入歌をてがけた。
なかでも有名なのが串田アキラが歌った『太陽戦隊サンバルカン』(1981年)と『宇宙刑事ギャバン』(1982年)の主題歌だ。


『太陽戦隊サンバルカン』ではタイトルの通りに、“太陽”がキーワードとして登場している。


特撮ヒーローシリーズは、東映の名物プロデューサー吉川進さんの指名で担当させていただきました。このシリーズではそれまで使われていなかった、無名に近いけれど他でいい仕事をしていた監督や脚本家が起用されていて、プロフェッショナルが集まって本気でいいものを作ろうとしていました。吉川さんの熱の入れようはというと、打ち合わせでコロムビアのロビーに来て、「今度のヒーローの決め技はですね」って自分でやって見せるんですよ、「蒸着!」とか言って(笑)。こっちもそれに応えなきゃというので、普段書くよりは言葉をキメて、それこそ決め技をやるような気持ちで書いていましたね。


15年にわたってそれを続けてこられたのは、プロフェッショナルたちといい仕事ができて楽しかったからだという。
だが、さすがに15年も経つとマンネリ感はまぬがれず、自ら降板を願い出たそうだ。

山川はNHKの幼児向け番組『おかあさんといっしょ』でも1982年4月から1998年3月まで、16年にわたって放送された人形劇「にこにこぷん」や、「ドレミファ・どーなっつ!」(1992年4月~1999年3月)でも原作・脚本・作詞を担当していた。

その場合は山川啓介ではなく、本名の井出隆夫名義にしていた。
そのことについてはこう語っている。

なぜ本名を使ったのか、実はよく覚えていません(笑)。僕は野口雨情、西條八十、北原白秋の三大童謡詩人をとても尊敬していて、その流れをくむ童謡を書いてみたいという思いがありました。そういう歌は本名で書きたいと、そのときは思ったのかもしれませんね。でも、小さな子供にとって歌というものは最初からあるもので、作る人間がいるなんて意識はありませんから、作った人の名前は知らなくても、歌の魅力で歌いつづけてもらえれば、それが一番うれしいです。


ヒーローものでも人形劇でも、同じ制作チームと10年以上も仕事が続いている。
それは単に信頼関係が強かったばかりでなく、視聴者からの支持を集めたということでもある。

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