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松重 豊 スペシャル・インタビュー【後編】音楽好きとしての飽くなき好奇心 そして、甲本ヒロトとの友情を語る

2019.12.31

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「超」がつくほどの音楽偏愛俳優・松重豊さん。彼がパーソナリティを務めるラジオ番組『深夜の音楽食堂』(Fm yokohama・毎週火曜深夜0:30より放送中)は、TAP the POPでも紹介してきた音楽がたくさん流れていたりと、最近では珍しいぐらいに骨太な音楽番組です。

勝手にシンパシーを感じてしまったTAP編集部は、番組収録後のスタジオに直撃し、松重さんに取材を敢行! スペシャル・インタビュー後編では、フットワーク軽くライブ現場にも足を運ぶ、音楽リスナーとしての柔軟さの秘密、そして長年の友人である甲本ヒロトさんとの関係について、たっぷり語ってもらいました。

松重豊 スペシャル・インタビュー前編はコチラ

取材・文/宮内 健


    松重 豊(まつしげ・ゆたか)
    1963年福岡県出身。蜷川スタジオを経て、映画、舞台、ドラマなど幅広く活躍する俳優。2012年に放送開始した連続TVドラマ初主演作『孤独のグルメ』(久住昌之・原作)はシーズン8まで続く大ヒットシリーズとなり、3年連続大晦日スペシャルも放送(テレビ東京:2019年12月31日22時〜)。
    主な出演作に、映画『血と骨』『しゃべれどもしゃべれども』『アウトレイジ ビヨンド』、ドラマ『ちりとてちん』『八重の桜』『アンナチュラル』『いだてん〜東京オリムピック噺〜』など。

──松重さんは、2018年夏にはサマーソニックにも行かれたそうで。年齢を感じさせないフットワークの軽さに驚かされました。ライブ会場へ足を運ぶ回数は、ここ数年でまた増えてきたんでしょうか?

 そうですね。最近とくに楽しくてしょうがない。サマソニはトム・ミッシュとかサンダーキャットといった好きなアーティストもたくさん出るし、コスモ・パイクのようにラジオで音源を紹介した人たちも生で観られるなら行ってみようってことで。実はフェス初体験だったんですけど。ステージはそれぞれに面白かったものの、年齢には勝てなくてヘトヘトになりました(笑)。


 つい先日もルイス・コールのライブに行ったんですけど、開演が押して結構待たされるし大変だったけど、ライブは楽しかったなぁ。やっぱり、若者についていけるだけの体力は残しておかないといけないなって思いましたね(笑)。


──ルイス・コールやトム・ミッシュも、音楽が好きな若い人の中でも、だいぶエッジが立ってる人じゃないと知らないであろうアーティストですよね。

 でも、きっかけさえあれば、ちゃんと辿り着けるし、聴けるじゃないですか。今の若い人たちはスマホやネットが普及したおかげで、いろんな音楽へ自由にアクセスできるでしょ? 僕らの若い頃は、大枚はたいて買ったレコードがクソみたいにつまらなかったら、へし折りたい気分にもなったもんだけど。音楽を入手する方法が絶望的に乏しかった時代に育った身としては、今の時代が本当に羨ましい。たとえばCDショップに足を運ばなくても試聴できるしね。自分にとって、新しい音楽を聴き漁ってる時間が至福の瞬間なんです。それがあれば、僕は何もいらない。そうなると今の気軽に聴き放題できる環境っていうのはありがたいですよね。音楽の作り手にとっては苦しい時代なんでしょうけど、多分これから先、YouTubeとかで面白い音楽を発表してる人なんかは、時差も地域も関係なく同時多発的に伝わりますからね。だから苦しい環境ながらも、良い空気は漂ってるんじゃないかって感じてるんです。そこにおじさんはしがみついてるわけなんですけど(笑)。

──しがみついてるというより、松重さんは自由に音楽の海を泳ぎ回ってる感じです!

 いやいや、ただの趣味なんですけどね(笑)。でも、新しい音楽を知れば知るほど、いろんなところでつながってるって気づくのも面白くて。番組に来ていただいたゲスト・ミュージシャン同士もつながってる人たちが多いですしね。たとえば、先日ゲストに来てくれたKan Sanoさんなんかも、2019年1月に出演してくれた中村佳穂さんと共作していらっしゃるし。自分にとっては、好きなエネルギーが輪になっていくような感じもして。それは嬉しい広がりだなって思います。


 今の若い子たちは、いろんな音楽に影響を受けて、そこから自分たちの時代の音楽を作ろうとしている。それは『深夜の音楽食堂』という番組を2年やってきて、すごくよくわかったことですね。若いミュージシャンと会話すると、共通言語がいろいろ見出せるのが楽しくてしょうがない。俳優の若い奴と話してても、全然楽しくないんだけど(笑)。

──中には親子ほど年齢の離れたゲストもいらっしゃいますが、若いミュージシャンの話を聴くことで、何かを発見することはありますか?

 ものすごくたくさんあります!! 若いアーティストたちが、どうやって自分の音楽に辿り着いたか、あるいは辿り着こうとしてるのか。どういうことを考えて日々暮らしているのか。そういう話を伺うごとに、すごく刺激を受けるんです。俳優の仕事っていうのは、実は自分の言葉をしゃべるわけじゃないし、僕自身クリエイターとしてそんなに面白いことをやってるわけじゃないと思ってるんです。だけど音楽を作るなり、詩を書くなりっていう表現は、クリエイターとしてすごく尊敬できるし、そこに辿り着くまでの一言一言に、こちらが勉強させられてます。

──一方で、『深夜の音楽食堂』では光石研さんや六角精児さんのような、同世代で音楽好きな俳優仲間とも音楽談義を展開されています。ちなみに番組の初回ゲストはザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんでしたが、松重さんとヒロトさんは同じ年で、下積み時代に下北沢の中華料理屋で一緒にバイトしたことで仲良くなったそうですね。

 そうなんです。ヒロトくんとは若い頃、一緒に映画を作ってた時期もあるんです。今は全然違うジャンルで活動してるけど、こうして自分の番組に出てくれることになるなんてね。こないだ久しぶりに会って、メシを喰いながら話してたら、ヒロトくんは自分がゲストで出演した以降も、ちゃんとこの番組をチェックしてくれてるみたいで。「この番組はいい! 絶対続けるべきだ。本当にいい音楽を作ろうとしている人たちを呼び続けてる。俺もまた呼ばれるように頑張る」って言ってくれたのは、嬉しかったなぁ。


 若い頃に「この音楽がいいよ」って、あれこれ教えてくれたのも彼だし、この取材の最初のほうに話した、新宿のツバキハウスであったジョニー・サンダースの来日公演も、ヒロトくんと一緒に観に行ってましたからね。そうそう、番組にゲストで出てくれたT字路sも、「すごくいいバンドがいるんだよ」って、ヒロトくんから教えてもらったんだ。


──ヒロトさんはロックンロールに喰らった衝動を、今でもずっと新鮮に持ち続けてる方で。松重さんも、音楽に初めて触れた時の衝撃をずっと追い求めてる。演奏する側と聴く側という立場は違えど、音楽に対する情熱は共通するんじゃないかなと思うんです。

 そこはブレてないっていうかね。新鮮さを失わないためにも、常に進化しようとしてるというか。変わらないことと変わり続けるっていうことを、お互いに意識し続けられる関係を持てるのは、同世代として嬉しいですよね。まぁ、僕とヒロトくんが同世代だって思ってる人が少ないのが悲しいことだけど(笑)。「え、同じ年なんですか?」ってびっくりされることが多いけど、二人とも今年56歳だよ!

──年齢を重ねていくにつれ、どうしても昔のモノの方が良いと考えがちだし、そこに浸ってしまうことも多いと思うんです。松重さんのように、新しいものへの好奇心を失わない秘訣って何なんでしょう?

 やっぱり、“I Can’t Get No Satisfaction”じゃないですか? 満足してないっていうか、もっと面白い、もっと新しい音楽と出会えるんじゃないかっていう想いが、常に頭の中にあるんだと思います。

──たしかに若い頃、新しい音楽に触れた時には、稲妻が走るような衝撃があったはずで……。

 そこからひと月ぐらい、頭の中でその音楽がループし続けたりしたじゃないですか? そういう衝撃こそが音楽が持つ力なんじゃないかと思うし、そんな出会いを今でも求めてる自分がいるんですよね。再びそういう奇跡が起きないかなって、音楽を漁り続けてるんだと思う。自分にとってそれは、苦痛でもなんでもない、楽しい作業でしかないんで。役者の仕事と違って、いつまでも飽くことはないと思います。



深夜の音楽食堂
Fm yokohama・毎週火曜深夜0:30~1:00

松重豊がパーソナリティを務め、俳優や映画監督、ミュージシャンなどをゲストに迎え、ゆったりとトークを繰り広げながら、お気に入りの音楽を届ける音楽番組。2016年10月にスタートし、4年目に突入。初回ゲストは甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)。大杉漣、光石研、田口トモロヲ、六角精児、木野花、黒木華、星野源といった、所縁の深い音楽好きな俳優たちも続々と登場している。
番組公式サイト

*本コラムは「TAP the POP5周年企画」として2019年1月1日に公開された記事に加筆修正をしたものです。

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