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ほんとうに最後のステージとなったビートルズのルーフトップ・コンサート

2016.10.04

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ビートルズのドキュメンタリー映画『レット・イット・ビー』が公開されたのは1970年のことだが、もとはテレビ・ショー用に企画されたものだった。

「トゥイッケナム・フィルム・スタジオに集まって、そのショーに向けてリハーサルをおこなうという計画だったんだ」と話すのは、アルバム『レット・イット・ビー』のミックスとプロデュースを手掛けたエンジニアのグリン・ジョンズだ。

リハーサルが始まったのは1969年の1月2日のこと、テーマは“ゲット・バック”、すなわち原点回帰である。

ビートルズは『サージェント・ペパーズ~』以降のレコードでは、オーヴァーダビングを繰り返すことによってそれまでになく新しい、しかも複雑なサウンドを次々と生み出していった。
だがここにきて、初期のようなシンプルなバンド・サウンドに戻ろうということになったのだ。

ところが新曲を具体的にしようとセッションを重ねる中で、メンバー間の意見の対立がそれまで以上に浮き彫りとなった。
ジョージがポールに腹を立てて、スタジオに一時は来なくなるという事態も起こった。

あれはすごく張りつめた時期だった。解散のはじまりと言うか。
あのあとはちょっとやりにくくなった。全員が発言権をほしがったせいだ。
(『ポール・マッカートニー 告白』より)


その一方で、テレビ・ショーを放送するという企画もメンバーの反対によって白紙となり、映画にすることになったがライブをする場所はなかなか決まらない。
ポールは初心に戻って小さなライブハウスで演奏することを提案し、ステージ恐怖症のジョンはサハラ砂漠など、人がいないような場所を希望した。
その他にも到底実現できなさそうなアイデアが、次々と挙げられてはいずれも却下されていった。

最終的に候補として上がったのは、ビートルズが設立したばかりのアップル社の屋上だった(これもその案を最初に誰が出したかは、諸説あってはっきりしない)。
撮影費用は安く済むしジョンも人目を気にせずに演奏できるので、それがもっとも現実的なアイデアだった。

ちなみにロックバンドによる屋上でのライブは、ジェファーソン・エアプレインが前月にニューヨークでひと足先に実現させている。



1969年1月30日。
紳士服店が立ち並ぶロンドンのショッピング通り、サヴィル・ロウは平日ということもあって、多くの人たちが働いていた。

そして時刻は正午を迎えてランチタイムに入ろうとしていたとき、突然、上空から生々しいロックが降り注いできたのである。
道行く人たちは上を見上げたが、その姿を見ることはできない。
しかし、それはまさしくビートルズの音楽だった。

最初に演奏されたのは「ゲット・バック」。
ビートルズが人前で演奏するのは3年ぶりということもあって、すぐに通りには多くの人たちが集まり、付近のビルの屋上にもビートルズの姿を人目見ようと次々に人が現れた。
そのまま「アイ・ウォント・ユー」や「ドント・レット・ミー・ダウン」など、次々と新しい曲を披露していく。



近くに警察署があったため、すぐに警官がアップル社の前に駆けつけたが、彼らもビートルズのファンだったのか、あるいは演奏を聴いている人たちを気遣ったのか、なかなかビルの中に入っていこうとはしない。

結局、彼らが近隣で働く人からの苦情を受けて屋上へと上がり、演奏が止まったのは40分以上が経過してからだった。
最後はジョン・レノンの言葉で締めくくられた。

「グループを代表してお礼を申し上げます。オーディションに受かるといいんですが…」


それはビートルズがデビュー前にオーディションに落ち続けたことを皮肉ったジョークだが、初心に戻ることをテーマとしたこのライブの最後にふさわしい言葉だった。

翌1970年に解散したビートルズは、このルーフトップ・コンサートが最後のライブとなった。
ポールがビートルズの最後だと感じたのはライブの後、「プリーズ・プリーズ・ミー」を再現した写真を撮ったときだという。

みんなちょっとブルってたからね――
「これはかなり最後っぽいぞ。これでふりだしにもどった。オレたちははじまって終わったんだ」
それ以外はみんな、「じゃあまた明日」って感じだった。
あれはあくまでも映画用のコンサートだったのさ。


please_please_me



引用元:
『ビートルズ オーラル・ヒストリー』デヴィッド・プリチャード/アラン・ライソート著 加藤律子訳(シンコー・ミュージック)
『ポール・マッカートニー 告白』ポール・デュ・ノイヤー著 奥田祐士訳(ディスクユニオン)

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