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伝説のカントリー歌手ロレッタ・リン 後編〜ジャック・ホワイトとの出会い

2015.03.15

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「音楽に携わっている人で、彼女の映画を観ても歌を聴いても何も感じない人がいたら、とっととやめてジグゾーパズルでもやった方が良いよ」

あるインタビューで、The White Stripes(ホワイト・ストライプス)のジャック・ホワイトはロレッタ・リンについてこう語った。
さらに彼女への称賛と共に、こんな言葉で敬意をあらわした。

「20世紀最高の女性シンガー・ソング・ライターだよ。それまでの女性にとっての障害を打ち破り、まだ誰もしていなかった頃から自分自身で曲を書いていたんだ。そして、誰もがためらうようなテーマに取り組んだんだ。彼女は“ナッシュビルシステム”で作り上げられた偽物じゃなく、夫と二人だけで成功したんだ。」

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2004年、ロレッタ・リンはアルバム『Van Lear Rose』のリリースをきっかけに、再びシーンに返り咲いた。
このアルバムで33年ぶりにグラミー賞を獲得。
それは、1971年にコンウェイ・トゥイッティとのデュエット曲「After The Fire Is Gone」がヒットして以来の出来事だった。
しかしながら、グラミーのカントリー部門であるCMA Awards(Country Music Association Awards)の方ではノミネートすらされていないというのが、このアルバムの作風をあらわしている。

さかのぼること3年…メンフィスでアルバム『White Blood Cells』(2001/V2)のレコーディングを終えたホワイト・ストライプスのジャックとメグは、車で自宅に帰る途中、“Loretta Lynn’s Dude Ranch”(ロレッタ・リンの観光牧場)と書かれた看板を目にした。
映画『歌え!ロレッタ愛のために』に出てくる場面と同じ風景を見たジャックは運命を感じ、出来上がったばかりのアルバムを彼女に捧げることにしたという。
同年、シングル「Hotel Yorba」のB面にロレッタの「Rated X」のカバーを収録する。

「Rated X」/ホワイト・ストライプス


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それを知ったロレッタは自宅にホワイト・ストライプスの二人を招き、意気投合し、ジャック・ホワイトをプロデューサーに迎えて新作を作る約束をした。
1曲を除いてすべてロレッタ自身が書き下ろしの新曲を準備するほどの熱の入れようだった。
音も、基本的にはトラディショナルなカントリーだが、随所で非常にロック的な荒々しい演奏が聴かれる。
伝説のカントリー歌手ロレッタ・リンとジャック・ホワイト。
彼らの関係は、ジョニー・キャッシュの復活にリック・ルービンが一役買ったのに非常に似ている。
キャリアの晩年に新しい息吹を吹き込むという、カントリーミュージックのスターたちの新たな伝統にのっとって、若く、才能溢れる曲者のジャック・ホワイトと真っ向から取り組んだ(当時70歳の)ロレッタ・リンが大いに注目を集めたのだ。

「I Miss Being Misses Tonight」/ロレッタ・リン feat. ジャック・ホワイト

「Portland, Orego」/ロレッタ・リン feat. ジャック・ホワイト


そんな彼女の半生を描いた映画のタイトルにもなった楽曲「Coal Miner’s Daughter」は、カントリーミュージックの傑作と言われている。
そこには、貧しくとも自分を育ててくれた、両親の愛情への感謝の気持ちが綴られていて…貧しさは恥じることではなくて、それ以上に素晴らしいものがあるという事が力強くメッセージされているのだ。
それは美輪明宏が作詞作曲し1966年に日本でヒットさせた「ヨイトマケの唄」にも通ずるものがある。
歌い続けて約60年…その声には筆舌に尽くしがたい“説得力”が宿っている。

「Coal Miner’s Daughter」/ロレッタ・リン (2015年・最新ライブ動画)


父さんは炭坑で働いた給金で8人の子どもを育てて愛してくれたわ
母さんは洗濯板で毎日服をきれいにしてくれた
私は母さんの指に血がにじむのを見たことがあるけど
何も不満を口にすることもなかったし
彼女はすべてを包み込むように微笑んでくれたわ



2010年には彼女のデビュー50周年を記念して自らのトリビュート・アルバムがリリースされて大きな注目を集めた。
そこにはホワイト・ストライプスによる「Rated X」も収録されており、他の参加アーティストも彼女自身が選定したのだという。
フェイス・ヒル、アラン・ジャクソン、キャリー・アンダーウッド、ルシンダ・ウィリアムズなどの豪華カントリー系ミュージシャンたちに加え、スティーヴ・アール、キッド・ロック、パラモアといったロック畑のアーティスト達もロレッタへのリスペクトを捧げている。
彼女の双子の愛娘の一人パッツィ・リンと、ジョニー・キャッシュの息子ジョン・カーター・キャッシュのプロデュースによるタイトル曲では、シェリル・クロウとミランダ・ランバートを従えてロレッタ本人が登場し、圧巻の「Coal Miner’s Daughter(炭坑夫の娘)」を歌い上げている。

「Coal Miner’s Daughter(炭坑夫の娘)」LIVE at CMA Awards 2010/シェリル・クロウ、ミランダ・ランバート、ロレッタ・リン


ホワイト・ストライプス、シェリル・クロウ、フェイス・ヒル他『Coal Miner's Daughter: a Tribute to Loretta Lynn』

ホワイト・ストライプス、シェリル・クロウ、フェイス・ヒル他
『Coal Miner’s Daughter: a Tribute to Loretta Lynn』

(2010/Columbia)


ロレッタ・リン『Van Lear Rose』

ロレッタ・リン『Van Lear Rose』

(2004/Interscope Records)


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