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よみがえる歌〜Ain’t No Grave

2014.05.11

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♪「Ain’t No Grave」/ジョニー・キャッシュ


俺の死体が入る墓 そんなものは存在しない
ラッパの音色が聴こえたら 地面を突き破り墓を抜け出してみせよう
墓になど入るものか 俺の入る墓なんてない


この曲は、作者不明のトラディショナルソング(伝統曲)だ。
17~18世紀のアメリカ・アパラチア南部に入植した移住した、アイルランド系やスコットランド系移民の音楽と、アフリカから奴隷として連れてこられた黒人達の音楽などが融合して生まれた“オールドタイム”(マウンテンミュージック/ブルーグラスの原型)の流れを汲む楽曲と云われている。


2003年9月12日、ジョニー・キャッシュはこの世を去った。
享年71。糖尿病の合併症による呼吸不全だった。
晩年、彼はレッチリ、メタリカ、RUN D.M.Cといったアーティストの作品で知られるプロデューサー、リック・ルービンとのレコーディングを続けていた。
「生の楽器」や「人の声」に徹底的にこだわった方法で、珠玉のカバー曲やオリジナル曲を“シンプル且つ丁寧に録音する作業”を繰り返していた。

このシリーズ(American Recordings)を通じて、彼は亡くなる一年前にアルバム『The Man Comes Around』(2002年)を発表した。
生前にリリースしたアルバムとしては、これが最後の作品となった。
そして亡くなった直後に発表されたのが、“発掘”という意味の5枚組のボックスセット『Unearthed』(2003年)だった。
その約3年後、遺作として発表されたのが『A Hundred Highways』(2006年)。
そこには彼が死の数日前に書き上げ、最後に歌ったオリジナル曲「Like The 309」が収録され、まさに“正真正銘のラストアルバム”となるはずだった…。

ところが、彼の死後(7年後に)同シリーズの最終章として一枚のアルバムが発表された。
冒頭を飾るタイトル曲に“墓なんかない”という衝撃的な言葉を打ち出してのリリースだった。
伝説の男、ジョニー・キャッシュが、墓から蘇ったかの如く発表されたこの『Ain’t No Grave』(2010年)とは、どんなアルバムなのか?
そこから見えてくる風景、知らされる真実、我々が学ぶべき事とは何なのか?

「俺を生きながらえさせているのは“記録”しておきたいからだ」

リック・ルービンによるとジョニーはそう語って、死の直前までスタジオにいたらしい。
最愛の妻を亡くし、病院とスタジオとの間を行き来しながら、目の前に迫った自らの死まで最後の力を絞り出すように録音していた。
彼は自分の死期を知っていたのだろう。
このアルバムに収められた歌を聴いていると、そのほとんどの曲が「死」や「生」について歌われたものだということがわかる。
シェリル・クロウの楽曲「Redemption Day」で印象的な“天国の門にまっすぐ向かう列車がいる”というフレーズ。
クリス・クリストファーソンの名曲「For the Good Times」では“悲しい顔するなよ、終わりはわかっているから。でも、人生は続く、世界は廻る。一緒にいたことを思いだそう”と続く。
そして、アルバムの最後を飾るのはハワイの名曲「Aloha Oe」。
まるで南国の楽園にでも出かけたような雰囲気で歌われる“これでおさらば。でも、向こうで会おうぜ”という言葉で、すべてが締め括られている。

これほどまでに素晴らしい“録音”を「埋もれさせるわけにはいない」という、リックを始めとする“ジョニー・キャッシュを愛する者達”の強い想いから、このアルバムはリリースされた。
「Ain’t No Grave!ジョニー・キャッシュを墓には入れられない!」とでも言わんばかりに…。

JC Project
【伝説の男とテクノロジーのコラボが実現!映像作家・クリス・ミルクMV「THE JOHNNY CASH PROJECT」】

「クラウドソーシング」というWeb用語をご存知だろうか?
2010年、オンラインで不特定多数の人にアウトソーシングを行うことだが、このシステムを使ったミュージックビデオ(MV)『THE JOHNNY CASH PROJECT』が発表された。
それはジョニー・キャッシュの追悼のために、ファンから募ったイラストで「Ain’t No Grave」のアニメーションMVを作ってしまおうという試みだった。
“想い”がぎっしり詰まったイラストたちの数は5,000枚以上!
その中には、日本から投稿で、33時間をかけて描かれたものもあったという。
すべての素材は一回毎に再構成されるため、同じ映像は二度と見ることができない。
再生する際には「High Rated Frames(高評価)」「Realistic(リアル)」「Abstract(抽象的)」など、表示するカットの種類をタグで選べたりもできる。

<映像を観る>
http://www.thejohnnycashproject.com/#/explore/TopRated

「ジョニーはこの曲でモラルや復活、永遠の命について歌っていた。この歌詞にこそ、僕らが構想していたコンセプトがあったんだ。ジョニーのファンがジョニーに愛や創造性を捧げることで、彼が歌う”永遠の命”を与えることができる。つまり、ファンの心にジョニーの魂は生き続けるんだ。だからこのビデオは、ジョニーへの愛が一つの形になった、映像のマニフェストになるんだよ。ジョニーの人生と彼が残した仕事の美しい証だね」(クリス・ミルク)

<このプロジェクトについて語られているムービー(英語)>
http://www.youtube.com/watch?v=WwNVlNt9iDk


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ジョニー・キャッシュ
『American VI: Ain’t No Grave』
(2010/American)

ジョニー・キャッシュ
『American 4: The Man Comes Around』
Lost Highway

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ジョニー・キャッシュ
『American 5: A Hundred Highways』
(2006/American Recordings)

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ジョニー・キャッシュ
『Unearthed』
(2003/American Recordings)

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