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私たちの望むものは〜“フォークの神様”と呼ばれた男が紡ぎ出した強烈なメッセージソング

2022.11.28

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岡林信康の実家は教会だった。
父親は新潟県の出身で30歳まで新潟で農業をしていたという。
しかし、閉鎖的な村社会が嫌になって故郷を飛び出し滋賀県の紡績工場に就職。
その時期に宣教師に出会い牧師となって大阪の神学校に通った後、近江八幡市の田んぼのど真ん中に西洋建築の教会を立てた。
1946年7月22日、彼はそこで生まれた。
近江兄弟社中学を出て、滋賀県立八日市高等学校を経て、1966年に同志社大学神学部入学。
彼はそれまで熱心なキリスト教信者であったが、実家の教会の不良少女の扱いに疑問を感じ、その後社会主義運動に身を投じる中で、フォークシンガー高石ともやに出会いギターを始める。
1968年、山谷に住む日雇い労働者を題材とした「山谷ブルース」でビクターよりレコードデビューを果たす。
翌年までに「友よ」「手紙」「チューリップのアップリケ」「くそくらえ節」「がいこつの歌」などを作り、その内容から、多くの曲が放送禁止となった。
当時は“フォークの神様”などとも言われたが、労音(勤労者音楽協議会)との軋轢や周囲が押しつけてくるイメージと本人の志向のギャップが出来て、彼はすでにプロテストソングに行き詰まりを感じるようになったという。
そしてロックへの転向を模索するようになる…。

それは1969年9月6日の出来事だった。
彼は大阪労演公演への出演をすっぽかし、同月23日の東京公演直前に「下痢を治してきます」と言ったまま失踪する。
当時、彼は連日のハードな地方公演に加えて「コマーシャリズムに隷属し、レコードを作って金儲けをしているヤツ」としてフォークゲリラ(1968年ごろから大阪・東京などで自然発生的に始まった学生・市民の反戦集会)から批判されたりして、精神的に滅入っていた。
数ヶ月の間、姿をくらませた彼は、翌1970年の4月8日に東京・神田の共立講堂で行われた音楽舎主催の『メッセージコンサート』に登場する。

「ごめんやす。出戻りです。お互い堅くならんといきましょう。」

アコースティックギター1本でパフォーマンスをしてきた彼だったが、この日は明らかにそれまでとは違う佇まいだった。
彼は、渡辺勝をはじめとする通称「グループQ」をバックバンドとして従えて、ロックのリズムにのってエレキサウンドを放ちながら歌い出したのだ。
その後も細野晴臣、松本隆、大滝詠一、鈴木茂による(当時はまだ無名だった)はっぴいえんどをバックに新たな試みを展開してゆくこととなる。


失踪しているさなか、彼はボブ・ディランを聴き『性と文化の革命』(W・ライヒ著、中尾ハジメ訳)を熟読し、大いに悩み考えたという。

「今まで外に噛みついてばかりいたけれど、自分の中にこそ噛みつかなければならないところがあるんではないか?そう考えたんです。」


彼は、それまでの自分を総括し、しっかりと自分自身を見据えた上で再び曲を作りはじめた。
社会に対して痛烈に抗議(プロテスト)していたものを自身に向け、自分の生活に根ざした歌を紡ぐようになったのだ。
1970年7月5日に発売されたこの「私たちの望むものは」/「性と文化の革命」は、そんなターニングポイントで生まれた楽曲だった。
“新生・岡林信康”として脚光を浴びて東京に移り住み、自由なヒッピー風生活をするが…すぐに行き詰る。
そして1971年の日比谷野外音楽堂での『自作自演コンサート 狂い咲き』および『第3回中津川フォークジャンボリー』を最後に、彼は再び表舞台から姿を消すこととなる…。
その後“人ぎらい・街ぎらい”の欝病を病むが、三重県で農業共同体を営んでいた山岸会を見学しヤマギシズムに傾倒してゆく。
自然の環境に身を置こうと岐阜県中津川近くの山村に移り住み、約1年後京都府綾部市の総戸数17戸の過疎村に居を移し農耕生活を始める。
そして1973年にソニーへ移籍し、活動を再開。
松本隆をプロデューサーに迎え制作されたロック路線のアルバム『金色のライオン』、『誰ぞこの子に愛の手を』などを発表し復活を遂げ、美空ひばりなどへの楽曲提供などもするようになる…



<引用元・参考文献『フォーク名曲事典300曲』/富澤 一誠(ヤマハミュージックメディア)>

【岡林信康オフィシャルサイト】
http://www.art-life.ne.jp/artistgallery/artist_top.php?artist_id=A0026



【佐々木モトアキ プロフィール】
https://ameblo.jp/sasakimotoaki/entry-12648985123.html

【TAP the POP佐々木モトアキ執筆記事】
http://www.tapthepop.net/author/sasaki

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