TOKYO音楽酒場

【21軒目】下北沢・Bar&Records Delmonico’s──約1万枚のアナログ盤に酔えるバー

2015.06.17

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いい音楽が流れる、こだわりの酒場を紹介していく連載「TOKYO音楽酒場」。今回はアナログレコードの豊富なセレクションを楽しみながら美味しいお酒が飲める、下北沢のバーを紹介します。

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小田急線の線路と駅舎が地下化して、急激にその姿を変えつつある下北沢。しかし、古くから街を知ってる人にとっては、かつての線路や踏切跡を目印にすることも多いだろう。取り壊しが進む下北沢驛前食品市場近くにある開かずの踏切と、一番街入口近くにある大きな踏切の間にある〈小さい踏切〉。本多スタジオのある古い建物にはロック・バーの老舗〈トラブル・ピーチ〉をはじめ、いい音楽が流れる酒場が軒を連ねるが、小さい踏切を挟んだ向い側にも〈Bar&Records Delmonico’s〉という素晴らしい音楽酒場があるのだ。

階段を昇ると目の前に7インチのドーナツ盤がディスプレイされたガラス窓が見える。扉を開けてまず圧倒されるのが、壁一面を占領する膨大なアナログレコードのコレクションだ。

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「こないだ数え直したんですけど、今あるレコードは9681枚。で、今日もディスクユニオンで9枚買ってきたんで、9690枚ですね。もうちょっとで1万枚になります。やっぱり1枚ごとに買ってきた日のことを思い出すし、それぞれの物語があるんですよね」

人懐っこい笑顔でそう語るのは、店主の森隆男さん。2003年にこの場所に店を構えて、今年13年目に突入した。

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「もともとサラリーマンをやってたんですけど、会社を辞めてから下北沢にあったアイスクリーム屋さんでバイトしていて。そこはカウンターがあってソフトドリンクやお酒も出してて、深夜0時まで営業している店だったんですね。曲も自分たちで勝手にかけてよかったから、その頃好きだったテクノのミックステープなんかを作ってはお店で流したり。そんな感じの店だったので、音楽好きの友達の溜まり場みたいになっていたんですけど、お店が閉店することになってみんな行き場を失って。だったら、自分でそういう場所を作ろうと思ってはじめたのがきっかけでした」

店名は、はっぴいえんどや山下達郎にも影響を与え、90年代にはフリー・ソウル・ムーヴメントでも再評価されたニューヨークのバンド、フィフス・アヴェニュー・バンドのファースト・アルバム『The Fifth Avenue Band』に由来する。

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「彼らの音楽も好きだし、このジャケットに写ってる雰囲気もすごく好きで。肩肘張らずに好き勝手に楽しめて、あとちょっとむさ苦しい男子が集まってる、みたいな(笑)。そんなお店になればいいなって思って、ジャケットに写ってる〈DELMONICO’S〉という店名をいただいたんです。それに、このアルバムって自分と同い年なんですよね。なので、年が明けた最初の営業には必ずこのアルバムを聴いてます」

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酒は定番のジントニックなども美味しいが、オリジナルのレシピで作られたミュージック・カクテルがとくにオススメだ。〈Sleeping Gypsy〉〈Windy Lady〉〈Italian Graffiti〉など、名曲・名盤からインスパイアし生まれた、目にも舌にも美味しいカクテルが並ぶ。

「ミュージック・カクテルは、開店当初からたくさん作ってきて。大喜利みたいな感じで、タイトルや音のイメージから考えていくんです。これまでには無理難題もいろいろ言われましたけどね、〈Gang Of Four〉とか(笑)。で、定番として残ったのがこの6種類。たとえば〈Windy Lady〉だったら、最後に加えるブルー・キュラソーで、海辺の風を表現してみたり……それこそ鈴木英人のイラストの中でふわふわ浮いてる、何かわからない模様みたいなのをイメージしてね(笑)」

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ぎっしり詰まったレコード棚を背にして飲む酒は、音楽好きにはたまらない旨さがある。約1万枚のレコード・コレクションは、60年代~80年代のロック/ポップスを中心に、ソウル、ファンク、ヒップホップ、ジャズ、ラテン、そして日本のニュー・ミュージックからシティ・ポップ、アイドル歌謡と幅広く網羅。それは、森さんの音楽遍歴そのものでもある。

「最初に好きになったのは、小学6年生ぐらいで聴いたオフコースやアルフィー。中学生になるとフュージョンが流行っていたので、カシオペアやT-スクエアを聴いて。それこそ『FMステーション』を読んではラジオをエアチェックして、洋楽のヒットチャートを追いかけていくうちに、自然とAORなんかも耳にしていたんでしょうね。一方で、日本のニューウェイブやインディーズを聴き出して、有頂天やウィラードとか……その辺から今の音楽の買い方に近くなってきましたね。ジャンルは関係なく、なるべく人が聞いてないものを探そうっていう欲求が出てきた。新宿まで出て、UKエジソンとかディスクユニオンを覗いたり、地元横浜の中古レコード屋さんも漁ってました」

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「あとは90年代の渋谷系やフリー・ソウルのシーンは、音楽的に一番大きな影響を受けたと思います。聴き方的にもジャンルとか年代に囚われず、よければ何でもいいっていう感覚。あれで、本当になんでもアリになった。自分はそんな文化を通っちゃったんで、今でもそういう風にしか聴けないけど、上の世代の人たちにしてみると節操無く思われるのかもしれない。でも、いい時代に音楽を聴いてこれたなって思います」

森さんはDJとして活動していたこともあり、客との会話や音楽の趣味に合わせて、さまざまな角度からレコードをセレクトして聴かせてくれる。

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「自分の中で盛り上がってることもあって、最近はヒップホップと80年代のソウルがかかることが多いかも。お店ではアルバムを片面通してかけることもあるんですけど、あらためて聴くといろんな発見があるんですよね。たとえば杏里のレコードを流した時に『杏里、懐かしい!』って思う人もいれば、まったく知らないけど『R&Bっぽくてかっこいいですね』って反応する人もいる。そういう感じで、聴いてきたものが全然違う人たちが音楽を介して会話が広がったりすれば楽しいなって思うんです。まあ、それぐらいしかウチには売りがないんで(笑)」

そこで森さんに、Delmonico’sの雰囲気を表す音楽を今の気分で選んでもらった。レコード棚から引っ張り出してきてくれたのは、竹下景子の隠れたシティ・ポップ名盤『私の中の女たち』(1980年)、UKソウル・グループ=ルース・エンズの『A Little Spice』(1984年)、そしてデトロイトの人気ヒップホップ・グループ、スラム・ヴィレッジ『Evolution』(2013年)の3枚。

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「この並びが面白いと思ってくれれば、たぶんウチの店を楽しめるんじゃないかと思います(笑)」

週1以上は店に訪れるという常連であり、DJとしても活動するTakeshi Inoueさんも、Delmonico’sの魅力を語る。

「マスターと音楽の話をするのが楽しいし、たぶんここに来る人はみんなそれを目当てに来てるんじゃないかな。マスターは、誰に対してもフラットなんですよ。音楽好きな人でも映画好きな人でも、アーティストだろうと、僕みたいな酒好きの飲んだくれが来ても、誰に対しても特別扱いしない。一人でお酒を飲みに来て、音楽を聴きにきたお客さんとして接してくれる。結構難しいことをさらっとやってるんですよね。それに自分が音楽を好きになった頃のような、余計な先入観を削り取ったフラットな気分にさせてくれるところも、このバーの好きなところですね」(Inoueさん)

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「カウンター・バーだし、これからも細々とやっていければ(笑)。まあイベントとか自分の好きなことを、もうちょっとやってもいいのかなとも思うんです。だけど、こういう普通の日の、日常の営業が一番好きなんですよね。やっぱりふらっと寄ってくれるお客さんを大事にしたいんで、毎日淡々とやるのがいいのかな。いつ来ても同じ感じだし、いつ来ても発見がある店であればいいなと思います。そして店を出た後に『今日も楽しかったなって』、ちょっとリラックスして帰ってもらえたらうれしいですね」

撮影/相澤心也


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Bar&Records Delmonico’s
東京都世田谷区北沢2丁目32-8 SSビル2F D
20:00~5:00(日休)
03-3465-8815
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*店の一角には中古レコードを販売するスペースもあります。

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