「本物の音楽」が持つ“繋がり”や“物語”を毎日コラム配信

TAP the POP

TAP the SCENE

セルピコ〜警察の腐敗を内部告発することになった男の苦悩と孤独と執念

2019.11.06

Pocket
LINEで送る

幼い頃から夢見た世界に飛び込んだら、そこは信じられない場所だった……世の中こんなことはよくある話だし、それが「大人になる」「社会のトレーニングを積む」ということになるのだろう。「いつまでも綺麗ごとは言ってられない」「背に腹は変えられない」。あなたにもこんな経験の一つや二つはあるはずだ。

だが、そこが警察だったら? 『セルピコ』(Serpico/1973)のオープニングは1971年2月。銃弾を喰らって瀕死の状態で運ばれるセルピコを捉える。NY市警の誰かが言う。「あいつは恨まれてたからな」「撃ったのは同僚かもしれない」。なぜこんなことになったのか。映画は11年前に遡っていく。

フランク・セルピコというイタリア系の青年は、幼い頃から警察に憧れ、遂にその日を迎えた。そして未来と希望に満ちた新人たちに向かって、お偉方は見下ろしながらこう言うのだ。

治安に携わる君たちには道徳的、社会的、政治的に重大な責任がある。勤務中であれ、非番の時であれ、礼儀正しく、尊厳を持って、また公正に振舞うことによって、一般市民に敬愛の念を喚起しなくてはならない。


セルピコはその言葉を胸に刻み込む。人生の門出。両親も息子の姿に誇らしげだ。しかし、そんな日も長く続かない。

所轄内では不正は当たり前。同僚たちの多くは任務と称して、違法賭博を見逃す代わりに賄賂を受け取ることに躍起になっている。いや、受け取るというより巻き上げるといった方がいい。やっていることはマフィアやギャングのそれと同じだ。おまけに勇気を出して報告したお偉方からはこう言われる。「解決策は二つ。君の死体が川に浮かぶか、見ていることを忘れるかだ」

嫌気がさしたセルピコは署を異動するが、どこへ行っても事態は変わらない。むしろ酷くなっていく一方だ。特に麻薬密売の賄賂は大金で、警察の安月給を遥かに超える。「俺たちは命がけの仕事をしてるんだ。金をもっともらって当然だろう」。同僚たちは頑なに金を受け取らないセルピコを変人扱いするが、そのうち危険な人物として共有し始める。「あいつは裏切り者になるかもしれないぜ」

不正や腐敗を黙認できない。かといってそうも簡単に告発もできない。相反する世界で苦悩し続ける彼のもとから愛する女が一人、また一人去っていく。

そんなセルピコにも信頼できる相棒や上司がいた。市長に訴えよう。いや新聞社だ。果たしてセルピコの決断は? 1970年4月、NYタイムズの一面に「NY市警の汚職」の大見出しが掲載される。それは本当の闘いの始まりだった……。

フランク・セルピコの実話に基づいたこの映画を監督したのは社会派のシドニー・ルメット監督。『十二人の怒れる男』『ネットワーク』『評決』などで知られた巨匠。主役セルピコを演じたのは『ゴッドファーザー』『スケアクロウ』に続くこれが映画4作目のアル・パチーノ。2年後の『狼たちの午後』で二人は再びタッグを組んだ。

2019年11月現在『ジョーカー』が世界中で大ヒットしているが、監督のトッド・フィリップスは70年代の人間描写に富んだアウトロー映画を参考にした。『タクシー・ドライバー』や『カッコーの巣の上で』と並び、本作『セルピコ』や『狼たちの午後』からも大きな影響を受けたという。

ちなみに1999年に公開された『インサイダー』は、タバコ産業の不正を告発したタバコ会社の重役とTVマンを描いた実話の社会派ドラマだった。出演しているのはもちろんアル・パチーノだ。

予告編


『セルピコ』

『セルピコ』


*日本公開時チラシ

*参考・引用/『セルピコ』パンフレット

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

Pocket
LINEで送る

あなたにおすすめ

関連するコラム

[TAP the SCENE]の最新コラム

SNSでも配信中

Pagetop ↑

トップページへ