『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(Once Upon a Time in Hollywood/2019)
映画作家クエンティン・タランティーノの9作目となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(Once Upon a Time in Hollywood/2019)が公開された。今回も自腹で映画館へ観に行った。
1991年、28歳の時に『レザボア・ドッグス』で監督デビューしたタランティーノが、世界のポップカルチャーの記号となったのが94年の『パルプ・フィクション』。その後97年の『ジャッキー・ブラウン』という愛すべき作品を挟み、『キル・ビル』2部作を発表したのが03/04年。自身の作品にお気に入りの映画・テレビ・音楽・コミックといったカルチャーを次々とサンプリング/オマージュしていく手法は、まさに同時代のヒップホップアーティストのような自由と軽やかさがあった。
そんなタランティーノ作品に何やら得体の知れない重みが加わったのが09年の『イングロリアス・バスターズ』。大胆に歴史を書き換える作風の始まりで、続く12年の『ジャンゴ 繋がれざる者』も同様のアプローチ。“書き換え”という意味では、今回の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も同じ流れにある。そこに従来のサンプリング感が強まった。だから集大成的作品と言われる。
よくSNSや動画などで「観る前の予備知識」的な情報や投稿を見掛けるが、映画は受験勉強じゃないんだから頭の中で予習なんかする必要は一切ない。観て心が動き、そこから探求していくのがカルチャーとの触れ方。この人の作品はそんな入口となり得る希少な存在。知のツーリストではなく好奇心のトラベラーであることが、タランティーノ作品を楽しむ秘訣ではなかったか。
チャールズ・マンソンやシャロン・テート事件を知らなくても、カウンターカルチャーやマカロニ・ウエスタンを知らなくても、そして極めて重要な1969年という時代背景を知らなくても別に構わない。この映画で一番心打たれるのは、落ちぶれつつある人間の悲しみと愚かさ。それでも現実を直視し、ささやかな光を掴もうとする姿勢だ。
まずここが軸としてあり、そこに事実の書き換えや膨大なサンプリングでストーリーやムードが肉付けされていく。こうして映画作りを心から楽しんでいる。メジャーインディー感覚を持ち合わせた愛すべきクレイジーなオタク野郎。それがクエンティン・タランティーノだ。
俳優とスタントマンの相棒関係。バート・レイノルズとハル・ニーダム。クリント・イーストウッドとバディ・ヴァン・ホーン。スティーヴ・マックィーンとバド・イーキンス。彼らはテレビから映画へとうまく転身したが、そこには波に乗ることができずに転がり落ちていった者たちもいた。リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)もその一組。
主演したディカプリオが、インタビューでこの映画の真髄を語っている箇所を見つけた。この映画は「クエンティンの映画業界に対するラブストーリーだ」という。
クエンティンは名作映画だけでなく、聞いたこともないようなB級映画や三文作品の歴史も知っている。失われてしまったような作品も、映画史から消え去ってしまった俳優たちのフィルモグラフィーも完璧に把握している。この映画は忘れられてしまっている人たち、当時成功しようとしてもがき苦しんで成功できなかった人たち全員へのオマージュなんだ。
映画の予告編
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*日本公開時チラシ
*参考・引用/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』パンフレット
*このコラムは2019年9月に公開されたものを更新しました。
評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
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