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イングロリアス・バスターズ〜「復讐制裁劇」で歴史を書き換えたタランティーノ監督作

2023.08.28

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『イングロリアス・バスターズ』(Inglourious Basterds/2009)


クエンティン・タランティーノ──映画・音楽・コミックなど膨大なポップカルチャーを吸収分析するコレクター気質と、それを消化して創作活動へと変えていく作家性を併せ持ち、誰も見向きもしなかったB級感覚をメインストリームに昇華させることのできる希少な監督。

日本でも新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が公開されたばかり。マンソン・ファミリーやシャロン・テート殺害事件などロックファンにはお馴染みの題材を書き換えながら、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという夢のコンビを実現させ、相変わらず熱狂的な映画オタクぶりを発揮している。

だが書き換えという点では、『イングロリアス・バスターズ』(Inglourious Basterds/2009)の方が凄い。ナチスやヒトラーを映画館ごと炎上爆破するという結末は、ドイツの呪縛とは無縁のタランティーノだからこそ思いついた衝撃的なエンディングだった。

タランティーノとブラッド・ピットは本作が初仕事。ピットはユダヤ系アメリカ人で編成されたゲリラ奇襲部隊バスターズを率いるリーダー役を演じた。ゲリラといっても屈強な男たちではなく、敢えてひ弱なメンツで揃えるあたりはさすが。

ピットも期待に応えることを忘れなかったようで、撮影以外の時間でも常に映画のキャラクターになりきったという。タランティーノが歓喜したのは言うまでもない。

他の話をする時でもアルド(ピットの役名)の声で喋るんだ。僕がこのキャラを作り上げただけにね、しょっちゅうそいつがそばにいるのは最高の気分だったよ!!


ドイツ人俳優クリストフ・ヴァルツや美しすぎるダイアン・クルーガーの起用も話題になったが、中でもユダヤ系のメラニー・ロランやイーライ・ロスにとっては忘れられない作品となったようだ。この映画を紹介するには二人のコメントだけで十分なように思えてくる。

ショシャナ(ロランの役名)の物語は私自身の物語とも言える。彼女みたいに勇敢ではいられなかったでしょうけれど、私の家族の多くがナチスのせいで死んだの。子供の頃、夢の中で何度もヒトラーを殺した。この映画でそれを実現することができたの──メラニー・ロラン


祖父母はオーストリア、ウクライナ、ポーランドから来た。ヨーロッパを脱出できなかった家族や親戚はホロコーストで殺された。僕はこの役を戦えなかったユダヤ人のために、そして今は生きていない親戚家族全員のためにやったんだ──イーライ・ロス


なお、脚本の最終稿を完成させるまで、タランティーノは構想から10年もの歳月を費やした。ナチスとユダヤという題材は、彼の重要なテーマの一つでもある「復讐制裁劇」を大いに刺激した。

物語は5章仕立て。それぞれの章はどことなく雰囲気が違う。オープニングではマカロニ・ウエスタンに戦争映画の要素が加わり、観る者を釘付けにする。映画はこのように緊張感と意外性の連続で展開され、結末へ向かって一気に進んでいく。そこにタランティーノ作品によくある「時間の長さ」を感じさせない。ゆえに『イングロリアス・バスターズ』は彼にとって最大のヒット作になった。

予告編


『イングロリアス・バスターズ』






*日本公開時チラシ

*参考・引用/『イングロリアス・バスターズ』パンフレット
*このコラムは2019年9月に公開されたものを更新しました。

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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