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クロスファイアー・ハリケーン/25×5〜ストーンズの長い歴史を綴った2本の映像作品

2024.02.13

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『クロスファイアー・ハリケーン』(Crossfire Hurricane/2012)
『25×5』(25×5:the Continuing Adventures of the Rolling Stones/1990)


TAP the POP読者にとって、ローリング・ストーンズは説明不要・大前提のような存在であるが、若い世代や音楽体験が浅い人にとって、ストーンズは「世界的に有名でめちゃくちゃ稼ぐバンド」「怖そうなオヤジたちがいるロックバンド」くらいの認識だろう。90年代以降、そういう感覚になった。

例えばもし彼らが次に来日した時、一緒に誘った若い彼女彼氏に「ストーンズってどんなバンドなの? 一体何が凄いの?」と訊かれた時、あなたならどうするか? 黙って音源を流す? 一晩語り尽くす? あるいはキースの分厚い自伝本をプレゼントする?

一番てっとり早いのは、ストーンズの長い歴史を綴ったドキュメンタリー映像作品を観てもらうことかもしれない。いや、それが最もわかりやすい。そこには本人たちのコメントやインタビューがあり、貴重な映像、代表的な音源、バンドを巡る出来事がぎっしり詰まっている。しかも年代順に、物語風にだ。

ストーンズの映像作品はこれまでたくさん上映/リリースされてきた。そのほとんどはツアーやコンサートなど瞬間を記録したもの。しかし今回紹介する2本は、ファンならマストアイテム。ストーンズの魅力が全編に渡って体験できるという意味で、初心者にもオススメできる。

まずは日本でも2012年に公開された『クロスファイアー・ハリケーン』(Crossfire Hurricane/2012)。結成50周年を記念して制作されたドキュメンタリーで、もちろん現在入手可能。

この作品の特徴は、監督がメンバー6人に個別にインタビューし、カメラを持ち込まずに声だけを収録。それを効果的に使用している点。そして編集のテンポの良さ。引用映像も膨大だ。登場するのはミック・ジャガー、キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツ、ロン・ウッドの現役メンバーに加え、1992年に脱退したビル・ワイマン、1969〜74年まで在籍したミック・テイラー。彼らのリアルな言葉に(1969年に亡くなったブライアン・ジョーンズは除く)、映像が重なっていく。

1972年、チャーター機を使って各地を飛んだ伝説の北米ツアーの模様から始まるこの作品は、次に60年代半ばのデビューまもないストーンズの若かりし姿とファンの異常な熱狂ぶりをとらえる。そして1967年のミックとキースの逮捕劇。ブライアンの孤立、死。ミック・テイラーの加入、オルタモントの悲劇。高額な税金によるイギリス逃亡、南フランスでの『メインストリートのならず者』録音。黄金期のツアー、テイラーの脱退。ロン・ウッド加入、トロントでのキース絶体絶命の逮捕。危機を乗り越えての1981年の史上最大規模のツアー……。

残念だったのは、『クロスファイアー・ハリケーン』が1981年で閉じられている点。60〜70年代は反体制の象徴だったストーンズが、「このツアーで真の成功を収め、みんなから愛されるバンドになった」と締め括られているのには、「ゴールはそこじゃないだろう」と疑問を抱いたり、納得いかない人もいるのではないだろうか。

確かに90年代以降のストーンズは、新作をコンスタントにリリースしなくなり、一方で大規模なワールドツアーを繰り返すたびに驚異の興行収入記録を塗り替えてきた。ネット時代にも順応したタフなロックンロール・ビジネスを確立させたのだ。

しかし、ファンとしては50歳、60歳、そして70歳になってもロックを演り続ける前人未到ぶりを描いてほしかったはず。開拓者としてのストーンズの在り方。ちなみに、最初の20年で区切ったことについてミックは「製作時間的な制約があった」と言う。「続編製作もあり得る」らしいが。

そういう意味で『25×5』(25×5:the Continuing Adventures of the Rolling Stones/1990)は、見応えのあるビデオ作品だった。タイトル通り、ストーンズの25年。つまり、1963〜1989年までの歴史をまとめたドキュメンタリー。

こちらには先に挙げた60〜70年代の出来事だけでなく、80年代のソロ活動で迷走する彼らの様子も収録。キースとミックの間に起こった確執やストーンズ最大の解散危機についての真相にも触れている。当時のメンバーへのインタビューも豊富で、結成時から年代順にゆっくりと編集。

ストーンズの“創始者”ブライアン・ジョーンズの出番も多く、“6人目”のローリング・ストーンであるイアン・スチュワート(上写真左の人物)、“敏腕”マネージャーのアンドリュー・オールダムへも言及。さらに同時代のスウィンギング・ロンドンやビートルズ、マリアンヌ・フェイスフルやアニタ・パレンバーグといったメンバーの女性関係。

何より嬉しいのは、自分たちに影響を与えてくれたマディ・ウォーターズやハウリン・ウルフら偉大なブルーズマンへの賛辞も忘れないこと。内容的には『クロスファイアー・ハリケーン』より濃い中身になっている。

『クロスファイアー・ハリケーン』予告編

『25×5』のオープニング

『ザ・ローリング・ストーンズ/クロスファイアー・ハリケーン』

『ザ・ローリング・ストーンズ/クロスファイアー・ハリケーン』



『25×5』はVHSの中古のみ入手可能。DVD化が望まれる。

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*日本公開時チラシ

*このコラムは2017年9月に公開されたものを更新しました。

【最新情報】
ローリング・ストーンズがバンド史上初の大規模な企画展を開催!(外部サイト)

評論はしない。大切な人に好きな映画について話したい。この機会にぜひお読みください!
名作映画の“あの場面”で流れる“あの曲”を発掘する『TAP the SCENE』のバックナンバーはこちらから

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